なぜ日本はラグビーW杯開幕戦の想像を絶する重圧を乗り越えロシアに逆転勝利できたのか?
フッカーの堀江翔太は苦笑する。 「移動が長いっすねぇ。海外みたいに、警察の方がびゃーっと(選手の乗るバスを先導する)…というのがなかったので。きょうも、1時間以上かかったんじゃないですか? しゃあないですけど…ね。(車内で)身体も硬くなるし」 十分な人数を揃えて繰り出すカウンターアタックと防御の裏へのキックで敵陣まで攻め込んでも、自分たちのハンドリングエラーと、スペースがない場所へパスしたことによる被ターンオーバーで得点を逃した。 それでも彼らが、この4年間、鍛えてきた地力の差は各所で表れた。 5―7で迎えた前半38分には、敵陣22メートルエリアでラインアウトからのモールを起点に展開。接点でロシア代表にスローダウンさせられながらもどうにか球を保持し、10個目のフェーズでウイングのレメキロマノラヴァが左端のスペースを激走。ゴール前5メートル左中間での12フェーズ目では、堀江がタックルされながらも少しこらえ、相手が根負けしてからじっくり地面に球を置いた。 その次のフェーズでは、おとりの動きなどで相手防御を乱しながら右中間へパスを繋ぐ。最後は中村がタックルを食らいながらバックフリップパスを放ち、ウイングの松島幸太朗が大きなスペースを駆け抜け、ゴールラインを割った。相手と衝突しながら正確に球を繋ぐ意識は、いまの日本代表の特色のひとつ。徐々に組織の乱れるロシア代表を見事に翻弄した。 松島はこの約5分前、右タッチライン際へ飛び込んでフィニッシュしたかに映ったプレーをテレビジョンマッチオフィシャル(ビデオ判定)で「ノックオン(落球)」とされていた。今度は確実にインゴール下まで回り込み、グラウンディング。ゴール成功もあって12―7と逆転。大歓声を浴びる松島は、表情を変えずに元の立ち位置へ戻った。 「80分間を通して色んなシチュエーションがありましたが、悪い場面をどう乗り越えていくか(を意識)。浮足立っているような選手がいたらもとに戻してあげられるようにオーガナイズしていくなどの、細かい声掛けをしました。満員のなかで声が通らない、声を拾えない、浮足立っていく、ということがないように…」 こう語るのは、左プロップでリーダー陣の1人である稲垣啓太。この日の日本代表は熟練者の細かい声かけなどで個々の選手の平常心を取り戻し、時間を重ねるごとに平常運転を実現させたようだ。 その成果が、後半28分の瞬間だった。