『クワトロ・フォルマッジ -四人の殺し屋-』 【第2話】 仕事は汚いほど金になる
【もうちょっと強くなったほうがええよ。そんなんじゃママを守れへん】
「パパ」 妻と真規子が駆けつける。真規子の目が濡れている。 「あの人たち、パパを……!」 ヤンキーAとBは何事もなかったように、大きな声で談笑しながら去って行った。 「京都もたいした街じゃねえな」 「寺しかねえな」 連中の背中を真規子は睨み付ける。今からでも飛びかからんばかりの表情だった。 「かまへん。パパはどっこもケガしてへんさかいに」 私は汚れた掌(てのひら)や膝の汚れを叩く。見物人が憐れむ目で見ている。 「おまえたちはケガないか。それならええ」 真規子が悔しそうに唇を噛みしめる。 「さあ、いこ。予約したレストランでおいしいもんでも食べて、ぱーっと嫌なことは忘れてしまお」 私は空元気の声を上げた。
布団の中で、私はその日一日のことを反芻(はんすう)していた。ヤンキーに絡まれた後、レストランで楽しいディナーを過ごす、はずだった。 いくら私が創作した失敗話を披露しても、いつもならお腹を抱えて笑うはずの真規子はクスリともしなかった。見物人同様、父親の私を憐れむような目で見下し、皿のほとんどを残した。彼女なりに意を決したようで、私の目を真っ直ぐに見つめてこう言った。 「パパはいつも私とママに優しくて、怒ったこともないけど、もうちょっと強くなったほうがええよ。そんなんじゃママを守れへん」 妻は驚いて、一瞬声を無くした。 「まきちゃん、パパはさっきの人たちみたいに暴力をふるうような人やないの」 真規子は視線を落として、少し考えていた。自分でも言いすぎたと思っているのだろう。 「まきちゃん、パパは悪うない。わかってあげて」 私は影が落ちた美しい湖を見つめ返した。 「せやな。真規子の言う通りや。パパ、頑張るわ」 真規子はすっかり冷めた紅茶に視線を落としていた。 次の日、家族でテレビを見ていた。日曜日なのに真規子は家にいた。リモコンでザッピングをしていたらバイオレンス映画だったようで、銃でドンパチ殺し合う場面が出てきた。主人公が冷徹な表情で拳銃を向けていた。