『クワトロ・フォルマッジ -四人の殺し屋-』 【第2話】 仕事は汚いほど金になる
【謝ってほしくて訪ねてきたんとちゃうねん】
私は私とCの亡骸(なきがら)を跨ぐ。AとBに座り直すよう指示を出す。 「京都、どこ回った?」 何事もなかったように訊ねる。AとBはまるで幽霊でも見たかのようだ。たった今殺されたばかりの私と生きている私を見比べて、驚きを隠せないようだった。Aが震え声で話す。 「ききき、金閣寺とか」 Bが答える。 「銀閣寺とか」 「どうやった」 「キレイでした」 私は少し声のトーンを上げた。 「ここで問題です。金閣寺を建てたのは誰でしょう」 Bが答える。 「……大工さん?」 私はBの腹を撃った。悲鳴が上がる。 「堪忍してや。せっかく音のせえへん銃で撃ってんのに、自分が大きな声出してどうすんの」 私の声が聞こえないのか、それどころじゃないのか、Bは激痛にのたうち回っていた。 「次の問題です。銀閣寺を建てたのは誰でしょう?」 私は拳銃をAに向けた。 「チッチッチッ……」 秒針を刻む音を口まねしてみた。さっきのキャバ嬢の声よりは上手くなかった。 「足利……ヨシマサですっ」 「ヨシマサはどう書く? 漢字で」 私は再度訊ねた。 「え、漢字?」 ヤンキーAは生まれてこの方初めて「漢字」という言葉を聞いたような顔をした。 「えーっと、えーっと」 Bが腹を抱えて悶絶している隣で、Aはぴんと背筋を伸ばして必死に考えていた。 「ヨシは、義理人情の義。マサは……」 「チッチッチッ……」 前歯を軽く噛んで秒針を刻む音を出す。やっぱり下手だと思った。 「マサは北条政子のマサ!」 私は秒針の口まねをやめた。 「自分、インテリか」
Aは首を横に振った。そんなに強く振らなくてもいいのにと思った。どうせ後で私に斬り落とされるのだから。 「なんで、京都に来たん」 訊くことなどなかった。さっさと仕事を終えればいいものを、ちょっと名残惜しくなったのは、昨日からの縁を感じていたからかもしれない。 「なんでって……テレビでよくやってるし」 「ふーん」 ありきたりでつまらなかった。オレオレ詐欺をやるようなろくでなしなら、もっと奇抜でこちらが思いつかないような回答が欲しかった。視界の隅にシャンパンの空き瓶が転がっている。私は無性にアルコールが欲しかった。気分を害する仕事のときは現場でも酒やタバコがやりたくなる。 「あんな、京都の人間が考えてることを教えたるわ。あんたら、こっちからお願いして京都に来てもらってるんとちゃう。京都に来たいってそっちが言うから来てるんやろ」 銃を向けられてAが慌てる。 「そうです! その通りです」 私は教師のような気持ちで彼らを諭した。