パレスチナ支持者はなぜMoMAに抗議するのか。大物パトロンとの関係など、その背景を解説
戦争や環境破壊から利益を得る「慈善家」を問題視
12日のデモは、ガザ戦争に反対する作家たちの団体「Writers Against the War on Gaza」(WAWOG)」によって事前に告知され、午後5時にMoMAに集合するよう呼びかけられた。ニューヨーク市警は混乱に備え、午後4時30分には歩道にバリケードを設置。ローダーの名前を冠した建物のドアが開く午後6時頃、西53丁目の歩道に集まったデモ参加者には、ケフィエ(*3)を着用した姿も多く見られた。 *3 ケフィエ(keffiehまたはkafiyyeh)は、中東各地で着用されている伝統的なスカーフ。近年では、パレスチナの民族的アイデンティティや抵抗を象徴するものとして捉えられることが多い。 太鼓や笛、ビラを手にしたおよそ50人の活動家、アーティスト、文化関係者の中には、MoMAの元職員も含まれ、ローダーを「ロナルド・スローター(虐殺者)」と揶揄するビラもあった。そんな中、「MoMAの理事会はジェノサイドやアパルトヘイト、入植者の植民地主義に資金を提供している」と大きく書かれた垂れ幕の端を握りしめた1人はこう叫んだ。 「大量虐殺を否定する世界ユダヤ人会議が今日、MoMAの施設を使用することに抗議する!」 WAWOGはSNSへの投稿やデモの配布資料で、2021年の抗議活動「Strike MoMA(打倒MoMa)」キャンペーンについて触れている。これは、MoMAが(レオン・ブラック前理事長を中心とする)パトロンに依存していることを糾弾するデモ活動で、10週にわたって行われた。活動家たちが問題視したのは、MoMAのパトロンが戦争や環境破壊に関わる事業から利益を得ている点だった。2021年の続編とも言える今回のデモでも、活動家たちはMoMAの幹部に対し、イスラエルとの経済的・文化的なつながりを断つよう要求している。 今回、その矛先が向けられたのがロナルド・ローダーだ。化粧品大手、エスティ ローダーの創業一族で、US版ARTnewsが選ぶTOP 200 COLLECTORSの常連でもあるローダーは、2005年に6500万ドル(約100億円)をMoMAに寄付している。また、メトロポリタン美術館への美術品寄贈や、その向かいにあるノイエ・ギャラリーの創設など、アート関連の慈善活動は多岐にわたり、ニューヨークの美術館界に大きな影響力を持つ人物として知られている。 MoMAでは過去に、パレスチナ支援を訴えて数百人が美術館に押し寄せたこともある。こうした活動と比較すると、12日のデモ参加者は人数こそ少なかったが、抗議の声は大きく、切迫感が感じられた。約1カ月前にはガザ戦争が始まって1年目の節目を迎え、1週間前にはドナルド・トランプがアメリカ大統領選で二度目の勝利を収めたという背景があるからだろう。