〝スーパーサブ〟ソフトバンク川瀬晃の「プロの準備」 首位独走を支え続けた縁の下の力持ち
内野手用のグラブからファーストミットに持ち替え、再びノックを受け始める。ノックを受け終わるとヘルメットをかぶって走塁練習へ。続いてバットを手に打撃練習へ向かう。みっちり2時間、汗を流す。ソフトバンク川瀬晃内野手(27)の日常の練習風景だ。ちなみに、この日のスターティングラインアップに彼の名前はない。「限られた時間の中でいろんなポジションを守ったり、人より多く練習したり。自分にムチ打つところは練習しかないし、練習のときこそ自分にプレッシャーをかけながらやっている」。川瀬は語る。 ■松葉杖でグラウンドへ…近藤が小久保監督と熱い抱擁【写真】 「ここ数年、ホークスのショートは今宮健太というのが当たり前だったけど、ホークスのショートは川瀬晃っていう時代をつくりたい」。昨年の契約更改交渉後にこう語り、レギュラー奪取を誓ったプロ9年目。ただ、ゴールデングラブ賞を5度獲得した先輩の壁は想像以上に高く、今年も越えることはできなかった。 それでもこの1年間、初めて一度も2軍に落ちることなく、バッテリー以外の内野全ポジションを守ることができる〝スーパーサブ〟としてチームを支えた。「(試合の)頭からいってもやってくれるし、途中からいってもやってくれる頼りになる存在」。こう話すのは奈良原浩ヘッドコーチだ。 守備固めや代打での送りバント。川瀬はここぞという場面で登場し、確実に仕事をこなしてきた。奈良原ヘッドは「後からいく選手ってやって当たり前という評価なんですよ。特に守備とかバントとか、簡単じゃないんですよ。当たり前のことを当たり前にやるってまあまあ難しいんだけど、それをやるのがプロ。そういう意味では彼はプロの準備がしっかりできて、それを結果で出している」。 川瀬はベンチから試合を見ている際、常に打者、走者、守る野手を「川瀬晃」に置き換えて、頭の中で同時に試合を行う。「常にシミュレーションじゃないけど『自分だったらこうするな』っていうのを初回から考えている。それをやっているから、ぱって試合に出たときに自分を信じて思い切ってやれる」。試合終盤、首脳陣が「勝負をかけたい」と思ったときに「準備できてますよっていう合図」(川瀬)を送る。首脳陣がベンチを見渡すといつも目が合うのは彼なのだ。 「野球は9人しか試合に出られないので、その中に選ばれなかったのは自分の力不足だったということ。でも、勝つためには最初の9人がずっと試合に出ているとは限らないし、野球もいろんな仕事や立場がある。僕はいろんなポジションが守れて、いろんなことができるというのが持ち味なのでそれを最大限に生かす」。今年も目指していたレギュラーは勝ち取れなかった。ただ、川瀬にしかできない〝スーパーサブ〟というポジションを確立し、縁の下の力持ちとしてチームを支えた。レギュラーがけがや不調で抜けても、戦力ダウンせずチームが首位を走り続けられたのは、川瀬のような選手がその穴を埋めていたからに間違いない。 「去年も悔しい終わり方をしたし、勝ちたいっていうそれだけ」。原動力になっていたリーグ優勝にたどり着いた。控え選手も含めて総力戦で勝ち取ったたまものだ。(大橋昂平)
西日本新聞社