なぜ今V争いの最中に?阪神の矢野監督への続投要請”公表”の異例タイミングを巡って賛否
昨年まで阪神で7年間コーチを務めた評論家の高代延博氏は、「時期としては早いとは思ったし、唐突の発表に驚いた。だが、阪神は人気球団でファンやマスコミなどの“外野”がうるさいので、その雑音を封じておきたい、優勝争いに集中してもらいたいという意図があったのだろう。優勝へ向けて逃げ切るためのフロントのバックアップだと思う」と、早期発表の理由を分析した。 優勝争いの中で、矢野監督の采配が問題で、もし首位を陥落することや大失速することでもあれば、3年契約の切れる矢野監督の進退を巡ってファンやメディアが騒ぎ出す可能性はある。すでに続投方針を固めている球団サイドにしてみれば、そのリスクを消す方が優勝へのラストスパートに向けてプラスだと判断したのだろう。 またドラフト会議がシーズン終盤の10月11日に設定されており、そこに来季の指揮をとることが正式決定していない監督が出席するのもおかしな話で、ドラフト会議までに続投を発表しておく必要があるという球団の考え方も理解できる。 では、この時期に事実上の監督人事の発表を行うことが、本当に悲願の優勝をバックアップすることになるのだろうか。高代氏は早期発表がマイナスに働く可能性は低いだろうという見方をしている。 「矢野監督は、球団トップに指導力を評価されたのだから、個人的に気分が悪いわけはないだろう。采配やチームのマネジメントに関しては、1試合、1試合、勝負がかかっている状況に変わりはなく、現場も選手も勝つために最善を尽くすわけで、そこに続投決定で余裕が出るとか、采配が変わるとかの影響はないと思う。選手の受け取り方は、それぞれ違うだろうが、結果や勝ち負けが変わってくるとは思えない。矢野監督は、テレビインタビューで『(続投要請があっても)何も変わらない』と語っていたが、その通りなんだと思う」 異例の続投要請がチームの後押しにつながることを証明するかのように、この日の中日戦に1-0で勝利。しかも優勝へ向けての重要なワンピースが加わった。 今季初登板となった9月9日のヤクルト戦で9安打6失点していた高橋が、球界を代表する左腕の大野雄と堂々と投げ合って人が変わったかのようなピッチングを披露したのだ。 7回を投げてヒットはわずかに2本。スコアリングポジションに進まれたのは二回二死から高橋周にこの試合唯一と言える失投の浮いたスライダーを右中間に運ばれた場面だけ。10三振を奪い、6回の糸原のタイムリーで奪った虎の子の1点を守り切ったのである。 高橋は、お立ち台で「前回、試合を壊してしまったので、何とか試合を作ろうと思って投げました。とにかく低めを意識して、あとは梅野さんのリードに従って投げました」と語ったが、まさに無双の内容だった。 球持ちの長いフォークから繰り出される独特のストレートは最速146キロをマーク。そのボールを軸に左打者へツーシームと呼ぶ落ちるボールをインロー。スライダーはアウトローと投げ分けた。10個奪った三振のうち8つはスイングアウトだが、ウイニングショットは、アウトローのスライダーが2つ、アウトローのカットがひとつ、インローのツーシームが3つ、アウトコースのストレートが2つとバラエティに富んでいて、しかも、すべてコースと高さを間違っていないものだった。 高代氏は「ストレートが効いていたからというレベルのピッチングではなかった。ストレートのスピードに、スライダー、ツーシーム、カット、そしてカーブとすべての変化球のキレ、そしてコントロールすべてが一級品。まさに非のうちどころがないピッチングで、私が今季見てきたセ・リーグの野球の中でも3本の指に入るくらいの内容だった。球持ちの長さが、高橋の特徴だが、同じ腕の振りで、ツーシームとスライダーを内外に投げ分けてくるのだから、得点力の低い中日打線が攻略できないのも無理はなかった」と分析した。。