いまや6000億円市場!《チョコレート業界》4大勢力がしのぎを削る「真夏の大バトル」
チョコレートが甘いという固定観念は、覆(くつがえ)されつつあるのかもしれない――。 【みんな大好き】明治、ロッテ、江崎グリコ、森永製菓…チョコレート業界4強の「看板商品」がズラリ! FRIDAY記者がそう感じたのは、うだるような暑さが続く8月中旬、編集部近くのコンビニを訪れた時のことだった。 昼時、40~50代と思(おぼ)しき女性が一人、菓子売り場を物色していた。職場が近所なのだろう、ジャケット姿で財布だけを持ってチョコレートの棚を凝視していた女性は、しばし逡巡したのち『チョコレート効果 カカオ72%』を手に取り、レジへと続く列に並んだ。 『チョコレート効果』は、明治が’98年に発売した、高カカオチョコレートだ(一般的なチョコのカカオ含有量は約30~40%)。カカオに含まれるカカオポリフェノールは脂肪燃焼効果や抗酸化作用を持ち、動脈硬化や高血圧などを予防すると言われている。 チョコレートといえばバレンタインの季節のイメージだが、こうした健康志向のチョコは、夏のオフィスワークの必需品にもなっているのだ。 「高カカオチョコレートには食物繊維も豊富に含まれており肌にもいい。最近では認知症予防効果もあるという研究結果が発表されました。いまやチョコレートは、子供のおやつから健康食品へと変わりつつあるのです」(『TVチャンピオン』「お菓子通選手権」などの優勝者でお菓子勉強家の松林千宏氏) 『チョコレート効果』を販売する明治は、現存する日本最古の板チョコ『ミルクチョコレート』(1926年発売)を擁する老舗メーカー。’62年発売の『アーモンドチョコレート』や、ネット上で″きのこたけのこ論争″を巻き起こした『きのこの山』(’75年発売)、『たけのこの里』(’79年発売)なども擁する。 「強力な商品群の中で、『チョコレート効果』は特異な存在です。チョコに対する消費者のイメージは、″甘くておいしい″なのに対し、この商品は″甘くないけどまぁまぁおいしい″なのですから。 事実、『チョコレート効果』は発売から約17年間、あまり売れなかったんです」(経済ジャーナリストの高井尚之氏) ところが開発担当者は粘り、中南米のカカオ農園を100軒以上回って品質改良に努めたという。高井氏が続ける。 「潮目が変わったのは、’14年でした。明治は愛知県蒲郡市、愛知学院大との産官学共同研究で、高カカオチョコが高血圧予防や善玉コレステロールの血中濃度上昇などの効果をもたらすことを明らかにしたのです。これがメディアに報じられ、『チョコレート効果』が脚光を浴びた。現在は年間売り上げ200億円規模という巨大ブランドに成長しました」 ロングセラー商品群と、新たなブームを巻き起こした新シリーズの両方を手中に収めた明治は現在、6000億円規模のチョコレート市場でナンバーワンのシェアを獲得している。 明治が巻き起こした健康志向ブームにいち早く乗ったのは、『ポッキー』を擁する江崎グリコだった。’16年に脂肪と糖の吸収を抑える『LIBERA』を発売し、これがチョコとして初めて機能性表示食品となったのだ。チョコレートジャーナリストの市川歩美氏が話す。 「『LIBERA』には食物繊維の一種である難消化性デキストリンが加えられており、これが脂肪や糖の吸収を抑えています。また、同社が販売する『GABA』(’05年発売)には『ストレスを低減する』効果を謳(うた)っているものと『睡眠の質を高める』効果を謳っているものの2種類がありますが、どちらにもアミノ酸の一種であるギャバが含まれている。 『ポッキー カカオ60%』など高カカオを意識した商品を展開していますが、基本的に江崎グリコは健康に効果があるとされる成分をさらに加えるアプローチを行っているという印象があります」 『GABA』のパウチ型商品には「ストレスを低減する」との文言が記載されているが、封を開けるとその文字は切り離され、捨てることができる。視覚的にもストレスと離れることができる秀逸なパッケージデザインと商品そのものの機能性で、グリコは″仕事中に食べるチョコ″という需要を開拓したのだった。 ◆カカオの仕入れ値が高騰 明治、グリコによる健康志向チョコの流れを受け、ロッテは’21年に『カカオの恵み』(72%)を発売した。 通常、チョコレート市場はヒット商品をすぐに後追いするということは少ない。実際、ロッテの『アーモンドチョコレート』は明治の『アーモンドチョコレート』の21年後に発売されており、ロッテ『トッポ』はグリコ『ポッキー』の28年後に発売されている。ところが……。 「『カカオの恵み』は、『チョコレート効果』と同じ72%で、ブームのわずか6年後に発売されました。明治の研究で72%のチョコが用いられていたことで、この数字がメジャーとなり、業界全体で似た割合の商品が展開されています。それだけ、各社が健康ブームに重きを置いているということでしょう」(同前) ロッテは現在、主力商品である『ガーナ』や『コアラのマーチ』とともに『カカオの恵み』を展開することで、業界シェア2位を堅持している。 3社が健康志向商品でしのぎを削るなか、『ダース』や『チョコボール』などを展開する業界4番手の森永製菓は、あえてその戦線から外れることを選んだ。 森永も70%、88%の高カカオチョコレート『カレ・ド・ショコラ』(’03年発売)を展開しているが、どういうことか。 「これは健康効果を打ち出したブランドではなく、あくまで『上品でおいしいチョコ』という位置づけなんです。『カレ・ド・ショコラ』の″カレ″とは四角形という意味で、お洒落で上品な印象を与える正方形。森永製菓の技術を結集させ、おいしいチョコを作るという矜持が感じられる商品です」(同前) 『カレ・ド・ショコラ』の特異性は、ほかにもある。 「ワインに合うチョコレートというコンセプトが打ち出されています。70%にはフルボディのボルドーワインが、88%にはシャンパンがよく合うと紹介されている。個包装であることも、高級感を増幅させています」(前出・松林氏) 各社は四者四様、さまざまな取り組みで6000億円市場の覇権を争っているが、とある大きな課題が、4大勢力を脅かしているという。 「昨今の物価高や歴史的な不作も相まって、カカオの仕入れ値が高騰しているんです。ただ、『チョコレート効果』や『GABA』など健康志向の商品は他の機能性表示食品に比べれば安価なので、多少値上げをしても消費者は離れないでしょうね。だからこそ、各社は健康・機能性路線に力を入れているのでしょう」(フードジャーナリストの長浜淳之介氏) そこで重要になってくるのが、″カカオの節約″だ。 「江崎グリコの『カプリコ』のような、空気が含まれた軽やかな口当たりのチョコが、今後のトレンドになるかもしれません。日本人は他国の人に比べて唾液が少ないという研究もあり、受け入れられやすいのではないでしょうか。 ロッテの『紗々』のように線状のチョコを折り重ねた商品など、カカオを節約しつつも高級感のある商品の開発にも期待したいところです」(前出・市川氏) 世情と共に移ろうチョコレート業界のめざましい変革についていけない企業は、これからホロ苦い思いをすることになりそうだ。 『FRIDAY』2024年9月6・13日合併号より
FRIDAYデジタル