女性だけ前のめりでいいのか?「卵子凍結」ブームの裏で置き去りにされた男性の不妊問題
不妊の検査や治療を体験する夫婦は現在、4.4組に1組の割合に上る。女性の間では卵子凍結への関心が高まり、治療総数は2013~19年までの6年間で50倍に増加。その一方で、男性側の原因については、真偽のはっきりしない不確実な情報も溢れている。問題解決のためには、男女共に、エビデンスを基にした正確な情報を共有すべきだと、評論家の牛窪恵氏は警鐘を鳴らす。※本稿は、牛窪恵『恋愛結婚の終焉』(光文社新書)の一部を抜粋・編集したものです。 【この記事の画像を見る】 ● 不妊治療の費用は1回50万円以上? 期待が裏切られる精神的ダメージも 「結局は、君(親)のエゴでしかない。そんな思いで子作りするなら、僕は協力できないから」。 30代後半のとき、夫にそう言われてしまいました。私がいわゆる「出産の期限」を感じつつも、軽い気持ちから「そろそろ、女として子どもを産んでみたい」。「そうすれば、仕事の幅も広がるかもしれないし」と夫に持ちかけたときのことです。 当時は私も抵抗しましたが、頑固な夫は首を縦に振りませんでした。いま思えばあのとき、子作りする・しないで揉めたからこそ、いまも本音で向き合える夫婦でいられるのだろうと思う半面、いま私が20代なら、「卵子凍結」を真剣に考えたかもしれません。 2021年時点で、子がいない夫婦(結婚持続期間15~19年)は7.7%で、10組に9組以上は(順序はどうあれ)「結婚すれば妊娠・出産」を経験し、私たちのように意図的に子を作らない夫婦は、さほど多くないと思われます(「第16回出生動向基本調査」)。 しかしその陰では、「なかなか妊娠できない」夫婦も増えているのです。「不妊治療」にまつわる検査や治療を体験する夫婦が、いまや4.4組に1組にのぼります(「第16回出生動向基本調査」)。
また、彼らのうち体外受精を受ける夫婦は、1回平均50万円かそれ以上の治療費を負担していますが(20年 厚生労働省「不妊治療の実態に関する調査研究」ほか/2人目不妊なども含む)、取材すると、仕事を続けながら毎月クリニックに通い、「今月こそはどうだろう」と期待しては裏切られる、といった精神的ダメージのほうを「辛すぎる」と嘆く夫婦が、圧倒的に多いのが実情です。 ● 女子大学生が友達と気軽に話す 「卵子を冷凍保存してきちゃった」 そんななかで近年、話題なのが「卵子凍結」です。13年、日本生殖医学会が事実上、健康な女性の卵子凍結を認めるガイドラインを発表すると、19年までの6年間で、卵子凍結の治療総数はなんと約50倍にも増えました(20年度「倫理委員会 登録・調査小委員会報告」)。 17年、私がある大学の学食で、女子大生4人と談笑していた際も、1人が「昨日、卵子を冷凍保存してきちゃった」と切り出しました。すると同席した他の3人が、「えっ?どこのクリニック?」と身を乗り出し、「元気な卵子って『お守り』代わりだよね」「結婚しないで、『精子』だけ探せばいいんじゃない?」と言い出したのです。