足が動かない人や目の見えない人が、バイクでさっそうと風を切る。障害がある人の「やりたい」を叶える「Side Stand Project」
◆駆け寄る夫とハイタッチ 午前10時、1回目の全員走行が始まる。1人のライダーに3、4人のスタッフがつき、乗車をアシスト。車体の前と後ろについてバランスが崩れないようにスタート位置へ誘導し、徐々に手を放していく。 走り出したバイクを不安げに見守っていたのだが、一度スピードに乗るとそんな心配は消し飛んだ。どのバイクも翼が生えたように、のびのびとコースを周回する。 1回目の走行を終えた女性に話を聞いた。早岐(はいき)伸子さん、53歳。彼女は7年前に脳出血で右半身麻痺になった。 「夫婦でバイク好きで、以前は2人でよくツーリングしていたんです。恢復後のリハビリは、生活に精一杯で身が入らなくて。でも3年前、拓磨さんのイベントでの走行を見て、自分もやってみたいと言ったら、夫がここを探してきてくれたんです」 早岐さんの夫は、この日もスタッフとして妻の乗り降りを手伝っていた。早岐さんは語る。 「最初に見学に来た時、全盲の方が走るのを見て衝撃を受けました。インカムで指示があるとはいえ、どれだけ怖いか。それでも走りたいという意欲と、それを実現する姿を見て、諦めるのはまだ早いと思いました」 目標ができるとリハビリにも熱が入った。何度か初心者向けの練習会に参加し、去年からコースに出られるようになったという。走行後、駆け寄ってきた夫と、バイクにまたがったままハイタッチを交わす姿に、見ているこちらも胸が熱くなった。
◆あくまで自分のために 「僕らは24年前の同じ日に事故に遭い、リハビリの病院で偶然知り合ったんです」 そう言って笑うのは、古谷卓さん(50歳)と丸野飛路志さん(60歳)だ。古谷さんは脊髄損傷、丸野さんは右脚切断で義足。ともに車椅子を使っている。 「スポーツが好きで、事故後も車椅子バスケやアイスホッケーなどはやっていました。でも、バイクにもう一度乗れるとは思ってもみなかった。丸野さんが、『乗れるかもしれないけど、やってみる?』と誘ってくれて、『やる』と即答。初めてバイクに乗った時は、足が動かないのを忘れるぐらい楽しかった」と古谷さん。 丸野さんは、自分よりも重傷の古谷さんに気兼ねしつつ、彼のためにできることを探っていたのだと言う。 「僕は義足なので普通のバイクにも乗れるのですが、同じバイク好きの古谷さんの前では乗らないようにしていました。そんな時SSPを知り、1人で見学へ行って。これなら古谷さんにも紹介できると思ったんです」 今でも2人は病院やサーキットで少なくとも月に1度は顔を合わせ、走ったあとは帰り道の《反省会》を楽しむ仲だ。 「次のレースのこととか、あのバイクの乗り心地はどうだったとか、話は尽きません。彼はいわば戦友のようなもの」と丸野さん。バイクを通じて、2人の友情はより深まったようだ。