【11月に注意してほしい感染症!】インフルエンザの動向に要注視 マイコプラズマ肺炎は過去最多を更新 医師「関東は伝染性紅斑に注意」
2024年11月に注意してほしい感染症について、大阪府済生会中津病院の安井良則医師に予測を伺いました。流行の傾向と感染対策を見ていきましょう。 【2024年】11月に注意してほしい感染症!インフルエンザの動向に要注視マイコプラズマ肺炎は過去最多を更新医師「関東は伝染性紅斑に注意」 ◆【No.1】インフルエンザ インフルエンザの患者報告数は、着実に増加しているものの、思ったより勢いがない印象です。また、エリアによっては、減少しているケースも見受けられます。しかし、一時的・局地的な減少はあったとしても、季節的にも流行自体はあると予測しています。2023年同様、例年と異なる状況で、流行規模の予測は困難ですが、引き続き注意が必要です。2024年第41週(10/7-13)の全国定点報告数では0.89となっています。流行が0.4を超えると流行開始とされる1.0までの到達は、早いとされています。インフルエンザは、インフルエンザウイルスを病原体とする急性の呼吸器感染症で、毎年、世界中で流行がみられています。日本でのインフルエンザの流行は、例年11月下旬から12月上旬にかけて始まり、1月下旬から2月上旬にピークを迎え3月頃まで続きます。しかし、今季はシーズン入り前から、一定程度の患者報告数があり、例年の同時期に比べると高い水準でのシーズン入りとなりました。一方で、地域差や増加の幅など流行の動向がつかみにくいため、注意が必要です。主な感染経路は、くしゃみ、咳、会話等で口から発する飛沫による飛沫感染で、他に接触感染もあるといわれています。飛沫感染対策として、咳エチケットや接触感染対策としての手洗いの徹底が重要であると考えられますが、たとえインフルエンザウイルスに感染しても、全く無症状の不顕性感染例や臨床的にはインフルエンザとは診断し難い軽症例が存在します。これらのことから、特にヒト-ヒト間の距離が短く、濃厚な接触機会の多い学校、幼稚園、保育園等の小児の集団生活施設では、インフルエンザの集団発生をコントロールすることは、困難であると思われます。 ◆【No.2】マイコプラズマ肺炎 マイコプラズマ肺炎の患者報告数が過去最多を更新しています。肺炎を発症し、入院が必要になるケースもあり、注意が必要です。直接、診察した患者さんは、挿管が必要になるほど重症化し、長引く咳が辛そうでした。小児科では、迅速検査キットを使用し検査ができる場合も多いですが、大人の場合は、咳・発熱症状を訴えて、クリニックで受診しても、原因不明で大きな病院に紹介され、そこでマイコプラズマ肺炎と判明するケースもあります。身の回りで、マイコプラズマ肺炎が流行していることを知っておくことが大切です。別名、オリンピック病と呼ばれ、4年に一度、オリンピックの年に流行すると言われています。しかし、前回の東京オリンピック開催予定年であった2020年は、コロナ禍で流行することはありませんでした。2024年に入り、徐々に患者数の報告が増えており、今年は流行すると予測しています。8年間ほど流行していなかったため、流行すると入院される方も増加します。2024年8月中旬時点のデータをみると、年初から、大きく増加。秋口あたりから、本格的な流行に移行する恐れもあり、注意が必要です。マイコプラズマ肺炎とは、肺炎マイコプラズマを病原体とする呼吸器感染症です。飛沫感染による経気道感染や接触感染によって伝播すると言われています。感染には濃厚接触が必要と考えられており、保育施設、幼稚園、学校などの閉鎖施設内や家庭などでの感染伝播はみられますが、短時間の曝露による感染拡大の可能性はそれほど高くはありません。潜伏期間は、2~3週間とインフルエンザやRSウイルス感染症等の他の小児を中心に大きく流行する呼吸器疾患と比べて長いです。初期症状として、発熱、全身倦怠、頭痛などが現れた後、特徴的な症状である咳が出現します。初発症状発現後3~5日から始まることが多く、乾いた咳が経過に従って徐々に増強し、解熱後も長期にわたって(3~4週間)持続します。抗菌薬投与による原因療法が基本ですが、「肺炎マイコプラズマ」は細胞壁を持たないために、β-ラクタム系抗菌薬であるペニシリン系やセファロスポリン系の抗生物質には感受性はありません。蛋白合成阻害薬であるマクロライド系(エリスロマイシン、クラリスロマイシン等)が第1選択薬とされてきましたが、以前よりマクロライド系抗菌薬に耐性を有する耐性株が存在することが明らかとなっています。近年その耐性株の割合が増加しつつあるとの指摘もあります。最初に処方された薬を服用しても症状に改善がみられない場合は、もう一度医療機関を受診していただくことをお勧めします。 ◆【No.3】手足口病 例年、手足口病の流行は7月下旬にピークを迎えます。2024年夏には、大きな流行をみせ、流行は落ち着きをみせると考えていましたが、2024年第41週(9/9-15)時点でも、定点報告数が10.78と、高い水準となっています。夏季の流行は、CA6と呼ばれる種類のウイルスが流行の中心でしたが、現在は、CA16と呼ばれる別タイプのウイルスが流行の中心となっています。夏季に流行した地域でも、再度、流行しているの、別タイプのウイルスの流行が原因と考えています。手足口病はエンテロウイルスなどを病原体とする感染症で、流行は夏季に集中しています。3日~5日の潜伏期間の後に発症し、口の粘膜・手のひら・足の甲や裏などに、2~3ミリの水疱性の発疹が現れます。手足口病の感染経路としては飛沫感染、接触感染、糞口感染があげられます。保育所や幼稚園などの集団生活では、感染予防として流水・石けんを用いた手洗いの励行と、排泄物は適切に処理をしましょう。また、子どもがウイルス感染し、その後に看病にあたった大人が手足口病に感染し発症する例もみられます。職場では感染対策としてマスクを着用し、こまめに石けんを用いて手洗いを行うようにしてください。 ◆【No.4】A群溶血性レンサ球菌咽頭炎(溶連菌感染症) A群溶血性レンサ球菌咽頭炎(溶連菌感染症) は、学校・幼稚園・保育園などでの流行が多くみられます。保育所や幼稚園の年長を含め、学童を中心に広がるので、学校などでの集団生活や、きょうだい間での接触を通じて感染が広がるので、注意しましょう。溶連菌感染症は、例年、冬季および春から初夏にかけての2つの報告数のピークが認められています。現在、冬のピークに向け増加しているとみられます。流行規模の予測は困難ですが、例年の同時期と比較して高い水準となっています。感染すると、2~5日の潜伏期間の後に発症し、突然38度以上の発熱、全身の倦怠感、喉の痛みなどが現れ、しばしば嘔吐を伴います。また、舌にイチゴのようなぶつぶつができる「イチゴ舌」の症状が現れます。まれに重症化し、全身に赤い発疹が広がる「猩紅熱(しょうこうねつ)」になることがあります。発熱や咽頭痛など、新型コロナの症状と似ており区別がつきにくいため、症状が疑われる場合は速やかにかかりつけ医を受診しましょう。主な感染経路は、咳やくしゃみなどによる飛沫感染と、細菌が付着した手で口や鼻に触れることによる接触感染です。感染の予防には手洗い、咳エチケットなどが有効です。また、劇症型溶連菌感染症は、2024年の累積報告数は、第37週(9/9-15)時点で、1,492人となっており、感染症法に基づく届出がはじまってから、過去最高を更新し続けています。溶連菌感染症が流行すれば、劇症型の割合も増加すると考えられます。じゅうぶんな注意が必要でしょう。 ◆【要注意①】伝染性紅斑(りんご病) 伝染性紅斑が、関東地方を中心に流行の兆しを見せています。全国的にはまだまだ低い数字ですが、東京・神奈川・千葉・埼玉など、首都圏で患者数が増加しています。伝染性紅斑は新型コロナウイルス感染症が流行した2020年以来、患者の発生はほとんどありませんでしたが、ここに来て各地で患者の発生が見られるようになりました。これから1年ほどかけて、ゆっくりと流行していくと予測されます。後述しますが、妊婦さんにとっては、危険性のある感染症なので、体調不良を感じた場合は近づかないことや、幼稚園・保育園などで、流行している場合は、施設への立ち入りを制限するなど、周囲の方も配慮が必要です。伝染性紅斑は、4~5歳を中心に幼児、学童に好発する感染症で、単鎖DNAウイルスであるヒトパルボウイルスB19が病原体です。典型例では両頬がリンゴのように赤くなることから「リンゴ病」と呼ばれることがありますが、実際には典型的な症状ではない例や症状が現れないケースもあり、様々な症状があることが明らかになっています。感染後約1週間で軽い感冒様症状を示すことがありますが、この時期にウイルス血症を起こしており、ウイルスの体外への排泄量は最も多くなります。感染後10~20日で現れる両頬の境界鮮明な紅斑があります。続いて腕、脚部にも両側性にレース様の紅斑がみられます。体幹部(胸腹背部)にまでこの発疹が現れることもあります。発熱はあっても軽度です。本疾患の大きな特徴として、発疹出現時期を迎えて伝染性紅斑と診断された時点では、抗体産生後であり、ウイルス血症はほぼ終息し、既に他者への感染性は、ほとんどないといわれています。妊婦が感染すると、胎児水腫や流産の可能性があります。妊娠前半期は、より危険性が高いといわれていますが、後半期にも胎児感染は生じるとの報告があります。その他、溶血性貧血患者が感染した場合の貧血発作を引き起こすことがあり、他にも血小板減少症、顆粒球減少症、血球貪食症候群等の稀ですが重篤な合併症が知られています。 ◆【要注意②】梅毒 梅毒は、性的な接触(他人の粘膜や皮膚と直接接触すること)などによってうつる感染症です。原因は梅毒トレポネーマという病原菌で、病名は症状にみられる赤い発疹が楊梅(ヤマモモ)に似ていることに由来します。感染すると全身に様々な症状が出ます。2024年の累積患者数は、第41週(10/7-13)時点で11,431人となりました。このまま増加が続けば、過去最多となった昨年並みの14,000例ほどになることが予測されます。性別関係なく、患者報告数が増えており、特に女性では、梅毒に感染したと気づかないまま妊娠して、先天梅毒の赤ちゃんが生まれる可能性があるので注意が必要です。妊娠中でも治療は可能です。ほとんどの産婦人科では、妊婦健診の際に血液検査してもらえます。妊娠したら必ず梅毒の検査を受けましょう。早期の投薬治療などで完治が可能です。検査や治療が遅れたり、治療せずに放置したりすると、長期間の経過で脳や心臓に重大な合併症を起こすことがあります。時に無症状になりながら進行するため、治ったことを確認しないで途中で治療をやめてしまわないようにすることが重要です。また患者本人が完治しても、パートナーも治療を行うなど、適切な予防策を取らなければ、感染を繰り返すことがあるため、注意が必要です。 ◆感染症に詳しい医師は… 大阪府済生会中津病院の安井良則医師は「11月に最も注意してほしい感染症は、インフルエンザを挙げました。今後、気温・湿度が低い流行に適した季節となるため注意してください。そして、気がかりなのは、首都圏を中心に流行の兆しが見え始めた伝染性紅斑(りんご病)です。4-5年ほど流行がありませんでしたが、各地でも患者報告があがり始めました。これから、1年ほどかけて流行すると予測しています。妊婦さんにとって、リスクのある感染症ですので、周りの方の配慮が必要です。また、現在、低調となっていることもあり、新型コロナウイルス感染症は、省きましたが、患者報告数の動向に注視が必要なことは変わりありません」としています。 監修・取材 大阪府済生会中津病院院長補佐感染管理室室長 安井良則氏