建築業界の寵児・秋吉浩気さんの発想力の源「子供と過ごす時間と本、そしてスイーツ」
「1カ月で建つ1000万円の家」をキット化して販売するなど、従来の建築業界の常識を覆すサービスを次々と生み出している若き建築家 秋吉浩気さん。 ▶︎すべての写真を見る 画期的なアイデアを生み出す時代の寵児のFUN-TIMEとは?
海辺を散歩のときとか、子供と一緒にいる何気ない時間が楽しいです
「全然大丈夫ですよ」。 リモートインタビューであるにもかかわらず、機材トラブルで接続ができない。PCと格闘すること20分。焦りながら何度もトライをするがやっぱりつながらない。結局リモートは諦め、電話インタビューと相成った。 焦りつつ申し訳なかった旨を伝えると、秋吉浩気さんは冒頭の言葉を鷹揚に口にする。泰然自若。まさにそんな言葉がぴったりな印象。 FUN-TIMEについて質問をすると「夜、静かに読書をするときは、自分としては楽しい時間です。あと週末に子供と遊んだりする時間ですね。いい気分転換になっています。 “FUN”のために何か特別なことをするというよりも、あくまで日常の中で楽しむと言いますか」。 自宅が海のそばということもあり、サーフィンなどのアクティビティに興じているかと思いきや、そうではないという。 「興味はありますけどね。子供と一緒に海辺を散歩するというのが日常的です。基本は、何かを一緒に作って遊ぶことが多いです」。 そんなお子さんと過ごすFUN-TIMEは、自身の仕事にどう影響を与えているのだろうか。 「直接的に影響を与えているかどうかは不明ですが」と前置きをしつつ。 「子供は、外でも家でもずっと工作をしているのですが、そういう意味では、人間が本来持っている能力として、欲しいものを作るというか、ちゃんと自由にクリエイティブに発想するのを見て驚かされます。 例えば紙切れやチラシを使って、車や人を作ったりするので、発想の自由さにもびっくりします」。
今新しいと思われているモノは、実は古くて懐かしいモノ
2017年にヴィルドを創業して以来、最新のデザイン&デジタル技術を駆使し、建築業界に新たな風を吹かせている。秋吉さん自身は決してそうは思ってないという。 「建築家という職業が明治時代に海外から日本に入ってきて、それ以降、東京駅を筆頭にコンクリートやガラスを使った多くの洋風建築が造られました。 でもそれ以前は大工さんが、木材を使って家を建てていた。僕がやろうとしていることは、まさに大工さんの仕事。新しいモノって、実は古くて懐かしいモノだったりするんですよ。 例えば昔の家には土間やひさしがありました。土間は熱を蓄えたり、冷やしたりして住環境を整え、ひさしは窓から直接日光が入るのを遮る役割を果たしていたわけです。当時の生活の知恵ですよね。そういうのも今改めて見直しているイメージです」。 22年に誕生した自社のサービスであるネスティングでは、好みの家をアプリ上でカスタマイズできるだけでなく、見積もり&注文までできる。画期的なサービスに映るが、秋吉さんはそうは思わない。 「僕から言わせれば、100年前から日本にある当たり前の風景であり、仕組みであると思っています。 町場の大工と話し合いながら、自分にとって居心地のいい家を建てるというだけのこと。今の社会はいろいろな意味で商業化しすぎているのだと思います。 先ほどの子供の話ではないですが、おもちゃなんかなくても、時間と空間があればどんな遊びだってできるわけですから」。 “古くて懐かしいモノの中に、新しいモノが宿る”。なかなか気付きにくい、ユニークな発想の源は、子供と過ごす時間に加えてもうひとつあった。子供の頃から大好きなFUN-TIME。 「やっぱり読書ですね。いろんな本を読んできましたし、今も続けています。 例えば網野善彦さんの『日本の歴史をよみなおす』という本には、中世日本の歴史や社会について、例えば百姓は農民が中心であるという、日本人に植えつけられていた先入観を壊す一方で、それまで歴史の中で不当に扱われてきた職人や芸能に光を当てるなど、教科書的には触れられていない真実が書かれていてすごく影響を受けました。 子供の頃に、そんなことを言ってくれる大人はいませんでしたから」。 新たなサービスを次々に生み出す秋吉さんの話を聞くにつれ、彼が手掛ける住宅以外のモノ作りにも興味が湧いた。