日本の火山観測は「世界トップレベル」なんと、10キロの棒が1ミリ傾くレベルを測れる…!それでも、「富士山噴火の予知は至難の業」のワケ
富士山は、「いつ噴火してもおかしくない」火山。いつ、どこで噴火するのか。それを予知することができれば、被害を大きく軽減することができます。 【画像】富士山体に溜まったは、なんと、東京ドーム240杯…!? 噴火予知の5要素のうち、火山性地震の観測で「いつ」「どこで」は予知できることがわかりました。さらにその観測精度を高めるのが、山自体の変化と、ガスの成分です。今回は、その観測方法、そこからわかること、観測精度についてなど、山体の「膨張・収縮」「火山ガスの成分」についての解説をお届けします。 *本記事は、ブルーバックス『富士山噴火と南海トラフ 海が揺さぶる陸のマグマ』から、内容を再構成・再編集の上、お送りします。
山の膨張と収縮を測る超精密計測器「傾斜計」
「動かざること山のごとし」は武田信玄の軍旗にある有名な言葉だが、火山の場合はあてはまらない。噴火にともなって、山が膨れたり縮んだりするからである。 噴火の休止期が終了し、下にあるマグマが地上に上がるときには、山体が膨張する。その反対に、マグマが下へ戻るときには、山が収縮する。このような地盤の動きを合わせて地殻変動と総称する。 山が示す膨張や収縮はきわめてわずかなものなので、非常に精確な測定をすることで初めて確認できる。具体的には、火山体をつくる斜面の傾きを「傾斜計」という精密機器を使って観測する(図「噴火前後のマグマだまりと火山体の動き」)。 どのくらい精密かというと、1万メートルの棒の片方が1ミリメートル持ちあがったくらいの傾きを測定するのだ。たとえば、餅を焼いて表面が1ミリメートルだけプクッと膨れたのを、1万メートル先から望遠鏡をのぞき込んで見つけることを想像してみてほしい。そのくらい、きわめて精度の高い技術なのである。 傾斜計は一般的には、地面に掘られた坑井の深部に埋設する。これは火山体の周囲に数多くの傾斜計を設置する場合に用いられる方法である。 そのほかに、火山の麓からトンネルを掘って、さらに精度のよい観測をめざす手法もある。具体的には、火山の斜面にトンネルを水平に掘り、その中に水が入った管(水管という)を3本、水平に並べる。これを水管傾斜計という。 水管の長さは約30メートル、直径は数センチメートルほどである。水管は直角三角形の3辺となるように並べる。それぞれの水管の両端では、水位は等しい。よって地面がわずかでも傾くと、中に入った水が移動する。この水位の変化を電気的に測定することで、傾斜を調べるのだ。 水管傾斜計を火山体の地下に埋めているのは、ノイズのもとになる温度変化が少ないからである。このように誤差を最小限に減らすことで初めて、火山の傾き、すなわちマグマだまりの膨張現象を細かく測ることができるのである。 たとえば鹿児島県の桜島では、噴火の数分から数時間前に山体がごくわずか膨張しはじめる。そして噴火が終わると、ただちに収縮へと転ずる。このような観測結果がリアルタイムで安全な場所にある火山観測所と鹿児島市へ送られ、噴火の事前に警報が出されている。 さらに、現在では、GNSSによる地殻変動の観測も行われている。