じつは、おなじ歩くのに、平地とは「正反対の歩き方」だった…知っておきたい「山の歩き方」と「疲労の種類」
登山人口は年々増加の一途をたどり、いまや登山は老若男女を問わず楽しめる国民的スポーツになっています。いっぽう、登山人口の増加に比例して山岳事故も増えており、安全な登山技術の普及が喫緊の課題となっています。 【画像】運動生理学で見た速さと運動強度との関係…秘湯を溜めない登り速度とは 運動生理学の見地から、安全で楽しい登山を解説した『登山と身体の科学 運動生理学から見た合理的な登山術』(ブルーバックス)から、特におすすめのトピックをご紹介していきます。 今回は、登山における運動強度と疲労の種類について解説します。 *本記事は、『登山と身体の科学 運動生理学から見た合理的な登山術』(ブルーバックス)を再構成・再編集したものです。
登山はジョギングなみの運動
早速ですが、図「生活活動やレクリエーションスポーツの運動強度と登山との対比」は、私たちが生活の中で行う運動や、レクリエーション的に行うスポーツについて、運動強度から見た位置関係を示したものです。「メッツ」という単位でランク分けしています。1メッツとは、私たちがじっとしているときに使うエネルギーのことです。 たとえば、ゆっくり歩けば2メッツ、普通に歩けば3メッツ、早歩き(ウォーキング)では4メッツ程度となります。これは、じっとしているときと比べて、それぞれ2倍、3倍、4倍のエネルギーを使う運動になる、という意味です。ジョギングでは7メッツ、ランニングになると8メッツと、運動が激しくなるほどメッツの値は上がり、運動がきつくなっていきます。 登山はどうでしょうか。ハイキング(山道をゆっくり歩く)、無雪期登山(ごくふつうの登山のイメージ)、バリエーション登山(雪山、岩山、沢登り、山などのよりハードな登山)と、大まかに3つに分けてみると、それぞれの上りの場面では6メッツ、7メッツ、8メッツくらいとなります(下りの場面では3~4メッツ程度です)。 つまりハイキングでさえ、上りの場面では、早歩きの1.5倍の運動強度になるのです。無雪期登山の上りであれば、早歩きの1.7~1.8倍となり、ジョギング相当の強度となります。雪をラッセルしたり岩をよじ登るといった、よりきつい運動を行うバリエーション登山になると、早歩きの2倍となり、ランニングなみの強度となります。 下界で何時間もジョギングをすることを想像してみると、大変そうだなと思うでしょう。しかし登山では、何時間も上り続けることが珍しくありません。 登山がそれほど大変な運動に思えないのは、日常生活から解放され、気持ちよい大自然の中で行うので、つらさを感じにくいためです。しかし実際には、身体にはかなり大きな負荷が、長時間にわたりかかり続けるということを、この図から知っていただきたいと思います。