多彩なシニア世代をひきつけ成長する植木屋 自然と接する自由な働き方を実現
庭木の剪定(せんてい)や庭の手入れ全般を手がけるクイック・ガーデニング(本社:東京都府中市)には、多彩な経歴のシニア世代が多く集まる。上場企業の役員や社員、建築士、プロサーファー、自衛隊員など、前職が植木とは無縁の職業の人たちばかりだ。 同社は2003年、ビジネスホテルチェーンを展開する東横インから出資を受け創業。現在、18都府県に営業拠点を持つ。木の剪定は1本から依頼でき、1本ずつ金額を見積もる明朗な料金体系を採用していることを売りにしている。 同社では、植木職人を「カットデザイナー」(CD)と呼ぶ。2024年12月時点で210人(平均年齢54歳、最高齢79歳)のカットデザイナーが業務委託契約を結び、全員がiPadと小型プリンターを駆使して働いている。また剪定後の庭を掃除する「お庭きれいサポーター」は115人いる(平均年齢70歳、最高齢85歳)。 人生100年時代、シニア世代が主役となり、家庭の樹木や街の緑を守り、顧客から感謝される仕事にいきいきと取り組んでいる。同社の渡辺則夫代表取締役に多彩なシニア人材を登用する背景などについて聞いた。(聞き手 ジャーナリスト・伊藤辰雄)
「髪の毛と同じように植木を切る」
――会社設立の経緯を教えてください。 ビジネススクールで同級生だった東横イン創業者の西田憲正氏から、当時「『10分1000円』の床屋があるだろ。髪の毛ができるなら(同じように伸びる)植木も(従来より手軽に切れるサービスが)できると思う」と言われたことがきっかけでした。 ――業績拡大の要因について教えてください。 昔は剪定をご家庭でやっていたが、出来なくなったケースが増えています。また少子化により、家のことを手伝ってくれる子供も減少しています。高齢化と少子化という時代の流れの中で、ニーズが高まっています。
――業務委託契約を結ぶカットデザイナーは、いわゆる昔ながらの職⼈ではなく、多様な職歴を持つ方が多くいますが、こうした人材構成にした理由について教えてください。 最初は「職人でないと木を切れない」と思い、植木業界の人を集めたところ、うまくいきませんでした。あるとき、元サラリーマンを初めて採用すると、うまくいったのです。よくよく考えるとサラリーマンは、身だしなみ、挨拶、名刺交換など、会社員生活を通してしっかりと身についています。元営業マンの方は、お客様の困りごとを聞き出して、提案することも可能です。木を切ることは、やっているうちに覚えます。今は99%が元会社員です。 【写真説明:カットデザイナーの山内定信さん(61歳)の前職は大手金融サービス企業の執行役員。「80歳まで働きたい」と考えたとき、自然と触れ合う仕事が頭に浮かんだという。年齢に関係なく始められる仕事を探していたところ、同社の研修制度が目にとまった。自然を相手にしながらも、田舎に引っ越す必要がない点もメリットだと語る。毎回顧客から、直接「ありがとう」と感謝される瞬間も、この仕事ならではの魅力だという。(写真提供:クイック・ガーデニング、撮影:照井賢久氏)】