「大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ2024」が開幕! ゴームリー、ニキータ・カダン、MADアーキテクツなど新作を中心にレポート
越後妻有里山現代美術館MonET
十日町エリアの顔とも言える「越後妻有里山現代美術館MonET(モネ)」は、原広司の設計により2003年に「越後妻有交流館キナーレ」として開業し、2012年の改装で「越後妻有里山現代美術館[キナーレ]」として生まれ変わった。そして2021年に再び大幅なリニューアルをし、「越後妻有里山現代美術館MonET」として新たにスタートした。 ここには、レアンドロ・エルリッヒ、目[mé]、淺井裕介、ゲルダ・シュタイナー&ヨルク・レンツリンガーなど、多数の作家による常設作品が展示されているが、今回は中庭の回廊や明石の湯エントランスを使った企画展「モネ船長と87日間の四角い冒険」が開催。インスタレーション作家の原倫太郎と画家の原游によるアーティストユニット「原倫太郎+原游」がキュレーションを担い、国内外11組のアーティストが作品を発表する。 芸術祭総合ディレクターの北川フラムより「とにかく楽しい場にしてほしい」と依頼を受けたという原倫太郎+原游は、館内中央に位置するレアンドロ・エルリッヒのトリックアートのような作品《Palimpsest: 空の池》の上に、放射状に水上歩道橋を設置。来場者はあみだくじを辿るように橋を渡ってエルリッヒの作品の上を行き来できる。トリックアートにトリックアートを重ねたような不思議な感覚になる作品だ。夜になるとライトアップされ、異なる表情を見ることができるという。 そのほかにもcontact Gonzo × dot architectsによる手作りの「パターゴルフ場」や、ヌーメン/フォーユースによる伸縮性のあるテープで作り上げた巨大な繭のような作品《Tape Echigo-Tsumari》、巨大な猫と龍を組み合わせたサ・ブンティによる《神獣の猫龍》など、中央の池を囲むように多彩な大型作品や参加型作品が並んでいる。 また館内では、ウクライナにまつわる2つの展示を行っている。 ひとつ目は、昨年に逝去したイリヤ・カバコフの創作の軌跡を辿る展覧会「知られざるカバコフ 生きのびるためのアート」だ。 旧ソ連(現ウクライナ)出身でロシアにも長年暮らしたカバコフは、妻のエミリアともに長年にわたって夫婦で活動し、「大地の芸術祭」とも縁の深いアーティスト。2000年に《棚田》を制作して以来、越後妻有に数多くの作品を残し、「越後妻有 大地の芸術祭 2022」では、平和への願いを込めた《手をたずさえる塔》を公開した。 「知られざるカバコフ 生きのびるためのアート」は、初期から晩年までの70年におよぶドローイングを通じて、カバコフの生涯と作品に新たな光を当てる試み。大学の卒業制作として制作された、ウクライナ出身のイディッシュ語作家ショレム・アレイヘムの『さまよえる星』の挿画とスケッチは、カバコフの創作の原点を知る貴重な連作で、このたび世界初公開となる。 また、ソ連で検閲を意識しながら絵本の挿画画家として活動する傍ら、「自分のための作品」として密かに描きためた1950年~1980年代のドローイングや、1992年のニューヨーク移住後の作品、さらにはウクライナ侵攻が始まった2022年、一時期は創作ができないほどの衝撃を受けたという作家が描いた作品群など、困難な状況のなかで平和や共生を追い求めた作家の表現を時系列で追うことができる。 もうひとつの展示は、ヴェネチア・ビエンナーレへの参加をはじめ、ウクライナの現代アートシーンを代表するアーティスト、ニキータ・カダンの個展「影・旗・衛星・通路」。 ロシアによるウクライナ侵攻が始まってから数週間のうちに制作を始めたという連作《大地の影》は、耕された畑のなかに黒い人影が横たわるモチーフが繰り返し描かれている。黒い土の中に黒いシルエットで浮かび上がる人影は、領土をめぐる戦いで殺された人々の無数のイメージを示唆しており、この連作の制作は今日まで続いているのだという。また、キーウ郊外の街・ホストメリの破壊された屋根の鉄で作った旗を、信濃川の石で作った土台が支える彫刻《妻有とホストメリの旗》も展示されている。 さらに越後妻有里山現代美術館MonETでは、ロシアのアーティスト、ターニャ・バダニナの新作も見ることができる。作家は亡き娘に捧げるシリーズ《白い服》プロジェクトを世界各地で展開しており、今回の新作《白い服 未来の思い出》では、妻有の住民の協力を得て集めた野良着を題材にした「白い服」を展示している。