子どもの奨学金を使い込んだ母。家族をバラバラにした元凶は?
―連載「沼の話を聞いてみた」― マルチ2世ーマルチ商法会社の販売員となった親を持つ自分たちをこう自称するのは、朝比ライオさん(以下、ライオさん)。 ライオさんは母のマルチ沼によって、家族が崩壊した経験から任意団体「マルチ被害をなくす会」を立ち上げた人物である。 今回は、ライオさん母がマルチ商法にハマった経緯や、その実害について聞いていく。 ライオさんが思い出す実家の光景は、必ずサプリメントが添えてある食卓だ。さらに、家の中にある日用品をいま思い返すと、ほとんどがマルチ商法の製品だった。
家のなかはマルチ商品だらけ
「母がこだわっていたサプリとプロテインのほか、特徴的な調理道具や浄水器、空気清浄機、シャンプー、洗剤など。 大人になってからマルチ会社のカタログを見たら、全製品コンプリートしてるんじゃないかという勢いで、あらゆる製品が我が家にはありました」 ライオさんが小学校高学年になるくらいまでは、“サプリやプロテインがまずい”、それから“謎のデモンストレーションの練習につき合わされる”程度の認識で、大きな不自由は感じていなかった。 コップの水にマヨネーズを入れると……ほら、溶けない! でも、わが社のマヨネーズはこんなに水と混ざり合う! というデモンストレーションを、マジックショーの練習のような気持ちで見つめていたという。
最初はまだ、浅いところにいた
ちなみにそれを聞いた筆者は最初、意味がわからずライオさんに尋ねた。 「水溶けると何がいいんですか?」 「体内に栄養が吸収されやすいってことじゃないんでしょうか……」 わかったようなわからないような。微妙なデモンストレーションである(本来はもっと「すごーい!」と思わせる説明があるのだろうが)。 話を戻そう。 ライオさん当時が当時、不自由を感じていなかったのはきっと、母がマルチ沼の“浅い部分”にいたからかもしれない。 マルチ商法のカルト的なマインドコントロールがより深まっていったように感じるのは、ライオさんが11歳のころである。 「母がマルチ商法に深入りしていったきっかけはおそらく、海外で開催される視察に招待されたことです。本社や製造工業などを訪問する過程で、スイッチが入ったように思えます」 本社に招かれる会員。そこには、“選ばれしメンバーだけが行くことができる”いう特別感があるようだ。 さらに、東京ドームのような大きな会場でのイベントも、モチベーションを底上げする。 トップクラスの販売員が大スターのように歓声を浴びながら、成功に至った華やかなストーリーや、涙を誘う苦労話を展開するのがお約束の大集会である。