子どもの奨学金を使い込んだ母。家族をバラバラにした元凶は?
結婚を機に、考え直す
「しかしその送金も、僕の結婚によってむずかしくなりました。自分の収入は、家族の共有財産ですからね。妻にも、おかしさを指摘されました。 そんな折、会社の上司に『家族がこじれていて』という話を少ししたんですよ。すると、会社の制度でカウンセリングを無料で受けられると教えられました。そこで、夫婦で受けてみることにしたんです」 これまでの経緯を打ち明け、カウンセラーから話を聞くなかで「それはあなたの母親が悪い」という言葉が出た。 それを聞いて、ライオさんは号泣してしまったという。 「はっきりと母を否定されたことが何よりもびっくりでしたし、うれしかったことを鮮明に覚えています。いまでもそうですが、子どもには親を否定することができない。しかし、この状況を客観的に聞いた人にそう言ってもらえたことで、救われた気持ちになりました。 それまでは人に話しても、なかなかわかってもらえない苦しさもありましたし、いっそのこと、手切れ金として母にまとまった金を渡せばいいのかとか、思い詰めていたりもしたので」
夢の住宅、売却計画
いまの状況をなんとかする必要がある。カウンセリングを通じて意識をあらため、ライオさんは兄とともに動き出した。 「兄とミーティングを重ね、無心の原因となっている二世帯住宅を売らせることを目標に、情報を共有し始めました。誰に総額いくら借りているのか、ローンのシュミレーションはどうなっているのか。 母に内緒で査定してもらったり、売却したあとの移転先も、いまの仕事や友人環境に影響がないように近くの場所で、趣味の農業もできるような庭があり……本人の意向を聞かないまでも理解を得られるような場所を、真剣に考えました。 売って、買って、引っ越して、さらに本人が希望するような家具もそろえたとしても、おつりがくる。そんなところまで、お膳立てをしました」
親戚一同が大集合
兄と弟で「母がこういう態度に出たら、こう切り返す」というQA集も作り、お互いのマルチに対するスタンスや当日の流れ、役割分担、タイムスケジュールも文書にまとめる。 ミーティングの内容は、すべて議事録に残した。 「母が頭の上がらない親戚にも協力してもらい、僕が帰省するタイミングで『売る』という言質(げんち)をとるべく、作戦を練りましたね」 詰められた母が暴走して包丁を持ち出すことまでを想定し、親族にも協力を呼び掛け、その集まりで勝負に出た。まるで、スリリングな契約に向かう、サスペンスドラマのようだ。 家族間でこれをやらねばならぬ心労は、一体どれだけのものだろう。それでも自分自身の家族の生活もかかっているのだから、やらないわけにはいかない。 そうして“夢の二世帯住宅”は、計画どおり売却された