「若返りに成功した五輪」トルシエジャパンの通訳ダバディーさんが見たパリ五輪の現実 パラはバリアフリーに課題、2人の日本人選手を称賛
新型コロナウイルス禍で強行開催した3年前の東京五輪の開会式とも比較し「東京は宮崎駿、村上隆、坂本龍一、村上春樹といった世界が知るトップ中のトップがいるのに呼ばなかった。街に祝祭感がないのも残念だった。フランスは100年に一度の祭典でそれができた」とも語った。 ▽ジダンが起爆剤に パリ五輪の活躍を振り返り、移民社会のフランスはこの20年でスポーツ大国に成長したと指摘する。スポーツが国民的な支持を得る起爆剤となったのは、サッカーのフランス代表が自国開催の1998年ワールドカップで初優勝した歓喜の瞬間だったと言う。移民系の選手らで構成されたチームで頂点に立ち「国民統合の象徴」と国中が熱狂した。その中でもアルジェリア系のジネディーヌ・ジダンは移民社会で希望の星となり「恵まれていない移民にとって、スポーツは一つの突破口となり、大きなドリームになった」と解説する。 「パリ五輪の柔道代表を見ても、英雄リネールはカリブ海に浮かぶフランスの海外県グアドループ出身。移民が住むパリの郊外からもエリート選手が次々と輩出される。フランスはもともとアマチュアからプロへのピラミッドの育成システムが優秀だった上に、この20年でサッカーだけでなく、人気が著しく上がった柔道、バスケットボール、格闘技系のスポーツがすこぶる強くなっている。パリ五輪でもそれが証明された」と語った。
▽上地結衣に感動、小田凱人の時代到来 一方、パリは郊外の治安や衛生面など社会課題も指摘され、特に歴史がある地下鉄の設備は古く、バリアフリーに大きな課題を抱えている。地下鉄1号線が最初に開通したのはパリで第2回夏季五輪が開催された1900年までさかのぼる。 バスと路面電車は車いすのスロープが搭載されるなど、バリアフリー化が着々進んでいるが、ダバディーさんは「昔のパリの地下鉄は空爆に対するシェルター的な役割もあり、大江戸線みたいに駅によって深くて石造り。エスカレーターやエレベーターを設置するのに予算措置の問題もあった。パラアスリートが地下鉄に乗って会場に行くことなんて、ほとんどできなかった」と指摘した。 それでもパラリンピックでは特に大観衆が集まった車いすテニス会場のローランギャロスの盛況ぶりに「本当に感動した。あっぱれ」と表現した。ダバディーさんはテニス解説者としても活躍するだけに、女子シングルスとダブルスを制した上地結衣(三井住友銀行)の2冠達成に「本当に感動した。年賀状のやりとりも続けているけど、いつも丁寧に手書きでびっしり。人間としての魅力と負けず嫌いの一面、地道に努力を重ねる彼女の向上心には頭が下がる。赤土のサーフェスでオランダ勢を本当によく倒した」と称賛した。
男子シングルスで初優勝した小田凱人(東海理化)の活躍には「国枝慎吾さんに負けないスペシャルな才能を持っている。彼の時代の始まりを告げる金メダルだと思う」と手放しでたたえた。