台北から日帰りできるお茶の町、坪林へ行こう!
台北101から高速道路を30分ほど走ると、北台湾で最も有名なお茶の町、坪林(ピンリン)に到着します。海抜400メートルに位置するこの町は、古くから台北(タイペイ)と宜蘭(イーラン)を結ぶ中継地として栄えてきました。湿度が高く茶の木の栽培に適した気候のため、1870年代から茶の生産が始まり、台湾の中でも歴史ある産地のひとつとなっています。今回は、その坪林で生産される「文山包種茶」についての解説と、町のおすすめスポットをご紹介します。 【画像】もっと写真を見る(11枚) 静かなブームが続く台湾茶。いま、本場・台湾では新しい品種や製法が次々に生み出され、その楽しみ方もどんどん進化しています。宜蘭で台湾料理教室を営み、台湾茶コンテストの審査員課程も修めた林品君(リン・ピンチュン)さんが、日本人の知らない台湾茶の世界をご案内します。
「文山包種茶」って何?
文山包種茶は台湾十大名茶のひとつとされ、業界で「北包種、南凍頂」と言われるように、台湾北部を代表するお茶でもあります。 「文山」は地域名、「包種」はお茶の種類の名称です。かつての文山地域とは、現在の台北市文山区、南港区、また新北市の新店、坪林、石碇、深坑、汐止などを含むエリア。台北市中心部から最も近い茶の産地となっており、南港駅から車やバスを使えば20分ほどで茶畑を訪ねることができます。また、文山区の動物園駅からロープウェーでアクセスできる「猫空(マオコン)」は、鉄観音茶の産地としても有名です。 昔は鉄やアルミの缶、ポリ袋などがなかったため、お茶は紙に包んで販売されていました。「種」とは「青心烏龍(チンシンウーロン)」という品種の俗称であり、それを「包む」ことから「包種茶」と呼ばれるようになりました。 文山包種茶は、発酵が軽く焙煎(ばいせん)もほとんどされていないため、緑茶に近い味わい。渋みが少なく、日本人の好みに合うと言われています。その最大の特徴は、花を使用していないにもかかわらず、花のような香りが漂うことです。 この香りは、茶摘み後の萎凋(いちょう、茶葉の水分を飛ばす作業)の工程を、製茶師が香りの変化を鋭敏に感じ取りながら行うことで生まれます。天候や茶葉の状態に応じて、空気に触れさせる頻度や時間を調整し、巧みに香りを引き出すのです。このような製茶方法は、後に台湾中南部へ伝わり、有名な高山烏龍茶の前身ともなりました。 ちなみに中南部に伝わった包種茶は、輸送や包装の効率のために茶葉を丸めて加工されるようになりました。「球型包種茶」とも呼ばれ、お湯を注ぐと美しく開きます。このタイプの包種茶は、今では台湾茶の80%を占めるまでになっています。 広大な茶畑の中にたたずむ坪林茶業博物館は、お茶好きには癒やしのひとときを過ごせる場所です。地方自治体が運営するこぢんまりとした博物館で、台湾十大名茶や包種茶を紹介する常設展示のほか、季節ごとに異なるテーマでお茶の歴史に焦点を当てています。 また、山あいの町らしい雰囲気を味わいたいなら「坪林老街」を訪ねましょう。台湾では、昔ながらの街並みが残る地域の中心を「老街(ラオジエ)」と呼びます(観光ガイドでよく紹介される九份〈チゥフェン〉も、台湾を代表する老街のひとつです)。 郷土料理は、老街の魅力のひとつ。「茶粿(チャグエイ)」は一見草餅のようですが、実際には粉茶を生地に混ぜて作られた餡(あん)入り餅です。また、茶葉チャーハンや茶葉天ぷらなど、この町ならではの味も堪能できます。「茶油麺線」は、茶の木の種から採った油(日本のツバキ油に似たもの)を使った素麺で、シンプルながらも旨味(うまみ)が詰まった一品です。 老舗駄菓子屋「祥茂食品」では、包種茶や紅茶の飴(あめ)、季節限定の包種茶雪花餅が人気の手土産です。雪花餅はクラッカーにメレンゲを合わせ、ドライフルーツやナッツを加えたふわサク食感のお菓子。坪林にしかない「包種茶味」をぜひ手に入れてみてください。