「いつも行きつけの店、同じ著者の本、同じ政党に投票…保守的になったら前頭葉が衰えてる証拠」【精神科医・和田秀樹×オリックス宮内対談④】
『80歳の壁』著者・和田秀樹が“長生きの真意”に迫る連載。宮内義彦対談の4回目。 【写真】和田秀樹×宮内義彦、対談の様子
仕事から離れる時間が大事
和田 精神科医としては「仕事を忘れられる場」があるのは、とても大事だと思います。実際は、仕事を切り離せない人が多いんです。例えば、旅行が趣味の人は、旅先で仕事のメールを見たりする。宮内さんのように「野球を見てる3時間は没頭する」というのは理想的です。 宮内 私は完全に仕事を忘れちゃってますね(笑)。 和田 それがいいんです。 宮内 じつは、おもしろいなと思うことがありましてね。先生に教えてもらおうと。 和田 はい、なんでしょう? 宮内 遊んでると、フッとね、仕事に関係するアイデアが出てくるんですよ。土日に休んで、日曜の晩ぐらいに、なんかいい考えが浮かんでくる。「俺、考えてないのになんで出てきたんや」と。なんですかね、これ?(笑)。 和田 人間の脳って、じつは膨大な量の書き込みが起こってるんですね。普段はその情報は引き出されず、脳の奥に蓄積されていきます。ところが一旦無心になると、ポッと浮かんできたりする。そういうことなんだと思います。 宮内 なるほど。 和田 野球見ながらでも、脳は何かを考えている。それが奥底でパッと繋がり、アイデアが出てくる。おそらく仕事モードから離れ、リラックスした状態だから繋がるのだと思います。 宮内 そういうことなんですね。不思議と、遊んでる間にいいアイデアが出てくることが何度もあって。 和田 よく「仕事人間はつまらない」と言われますが、今の話と関係しているのかもしれません。常に仕事モードだと、奥にある情報がうまく繋がらない。だから仕事の話ばかりする。脳を解放してあげる時間が大事だと思います。
もっと感動したほうがいい
宮内 近頃は、最近のことをすぐ忘れてしまいます。ところが10年前のことはよく覚えてる(笑)。なんでかなと考えて、思い当たることがありました。 和田 ほう。 宮内 最近のことは忘れたんじゃなく、覚えてないんじゃないか、と。脳への入り方が薄い気がするんです。 和田 鋭い洞察ですね。じつは、人間の脳は、ある種の感動や驚きなど“感情のフック”があると記憶に残りやすいんです。でも、年を取ると感動が減ってくる。それで記憶に残りにくいのではないかと思うんです。 宮内 なるほど。もっと感動しないといけませんね。 和田 僕がよく言うのは「年を取ったら強い刺激が必要だ」ということです。若い頃は経験が少ないので、小さなことにも感動できます。大して美味しくないものでも美味しく感じるし、箸が転んでも笑えます。若い頃は東京タワーを見て感動できたのに、年を取ると物足りなくなる。ピラミッドを見てやっと感動できたりする。つまり強い刺激が必要なのです。 宮内 なるほど。 和田 宮内さんは日常的にトップレベルの物事に触れているので、僕らとは感動の次元が違うと思うのですけど。 宮内 何に触れるかも大事ですが、どう思うかも大事ですよね。いろんなことに興味を持っていれば、年を取っても感動できると思うんです。 和田 素晴らしいですね。脳科学的には、興味・関心・意欲などの感情部分は「前頭葉」という部分が司っています。ところが前頭葉は、脳の中で最初に縮み始める場所なんです。普通の人は気づかないうちに、興味や好奇心が薄れてきてしまうんです。早い人だと、40~50代から始まります。 宮内 そんなに早く? 和田 はい。だから、宮内さんはやはり驚異的です。