「大人が夢を語れ!」柳川高校復活のきっかけをつくった“絶校長先生”古賀賢校長・理事長。テニスでは「選抜から全米オープンジュニアチャンピオンを出す」【テニス】
――生徒や先生たちを巻き込んでステージを引き上げる力があるように思います。その源はどこからやってくるのでしょうか。 「私としては意識してやっているところではあります。(イギリス留学から)帰国した当時はパワーダウンをしていました。それは何故かというと、柳川高校は重たい感じのする昭和の時代の雰囲気があり、先生が生徒を押さえつけている感が強かった。『こんな教育で人って育つのかな?』と柳川高校を辞めてしまいたいと思っていたんです。教育問題で悩んでいる中、ペレストロイカとかグラスノスチなど、国を変えてしまうというのはどういうことなんだろう?と、ミハイル・ゴルバチョフ(ロシアの政治家)さんに会いたかったんです。そんな時、ゴルバチョフさんが『ノーベル平和賞』を受賞し訪日することになり、関係者の方のご配慮でお会いできることになりました」 「(実際に会ってみると)私の悩みなんてちっぽけなものでしたね。27歳の私が質問を用意していたのですが、あまりのオーラで握手した瞬間にすっ飛んでしまいました。質問は『ペレストロイカすごいですね』しか言えず、『そうですね』と言われたあとに『ペレストロイカというのは絶対にソビエト連邦の未来にとって必要なんだ。10年間はガタつくかもしれないけれど必要なんだ』と。握手した瞬間に体中に電流が流れるようにメチャメチャ元気を貰いました!あの時のことが忘れられなくて、『元気が無い人に元気を与えよう!』と思った瞬間で、転換期となった出来事です。握手をして『これで人って元気になれるんだ!』と思い、人と会った時は絶対握手をするようにしています」 「人って元気の無い時ってありますよね。生徒もインスタでDMを送ってきます。『校長先生、空いてる?』とかメッセージが来るんですね。そして生徒と会ったときには、私は絶対に握手をします。人は人から与えられたもので変わることができる!という風に思っているんです。たまに松岡(修造)くんとお食事をする機会があると彼のエネルギーを感じることができます。そして私がまた元気になる。人と会って充電するって、こういうことだなって。私はゴルバチョフさんからいただいたもの。そして松岡くんからいただいたものを人にどんどん与えていっていると思っています」 ――古賀校長は教育現場の視点からテニスを俯瞰してみている感じを受けました。 「『テニスx教育』という感じですね。世界に通じる選手を育成するというより、『教育のもたらすマインドへの大きさ』だと思っています。そのマインドセットを変えていくことが特に個人競技においては大切で、今回の全米オープンジュニアを見ても海外の選手との差はマインドだと感じています」 ――話が少し前に戻りますが、『心技体』の『心』の部分の強化に関して、現場で教えているコーチの皆さんには今、一番何が必要だと思いますか? 「人は、自分が育てられた経験則に基づいて人を育てるものだと思います。ひと昔前は『練習中は水を飲むな!』と言われたり、『殴って殴られて人は育つ』と言われ、みんな苦しい練習に耐えて耐えて、心を鍛えると信じていました。日本は独特の魔法にかかっていたんです。でも最近は子供たちがジュニア時代から海外を経験することが増えてきて、だんだんと世界が視野に入ってきました。指導する大人たちのマインドチェンジが必要な時代になってきてるんです」 ――『個』を育てる、という視点から子供たちに一言声をかけるとすれば、古賀校長からどんな言葉がありますか。 「あえて子供たちに行動力を身につけさせるために全校朝礼で話をしている際に、「この続きを聞きたければ校長室においで」と言っています。そこで行動力が試されます、実際に校長室に来た子供たちには『ここに来た時点で皆んなは大きな成功のチャンスを握った』と私は思っていると伝えてからその続きの話はしていくんです。そういう方法を取って育てていこうというところはあります」 「子供たちの前に立っていろいろやっていくことに関して言えば、『ストーリー』は大切だと思っています。今度、校長先生が目の前に立ったらどんな話をしてくれるんだろう?って。ニューヨークから柳川高校の2学期の始業式をやったりしていて、今年はエンパイアステートビルで前年はタイムズスクエアでした。今年は松岡くんと始業式を一緒にやったんですよ。子供たちの前に立つ時はワクワク感のあるストーリーを考えています」 ――演出も教育の一環だと考えているのですね。 「この時間にお話をさせていただいている中で、柳川高校はいっぱいいろんな事をやっているというのはお伝えできたと思います。ウチの学校の子供たちは目がキラキラしています!これは自信を持って言えます。私が一番大切に思っていることは子供たちがキラキラ輝く環境を作ってあげることです」 「私が校長になって16年が経ちますが、(最初の)10年間は思いっきりやって気づいたことがあります。やっぱり全部私1人でやっているのはダメだと思ったんです。そこからの5年は現場の先生たちで決断することができる組織を作ろうという感じにシフトしてきました。おかげさまで学校全体の空気が変わり、入学者数も増えてきているのでありがたいことです」 ――ではテニスに関してはいかがでしょうか。 「テニスのお話をさせていただくとすれば、私が全国高校選抜大会の会長を務めさせていただいています。日本テニス協会と高体連共催の競技大会で、魅力ある現場を作り上げていくと同時に、選抜で勝った選手が『全米オープンジュニア』でも優勝するんだという強い意志を持って取り組んでいきたいと思っています。このサクセスストーリーが大切で、ポジティブな事例を作って『高校テニスのマインド』を変えていきたいと思っています。これには大切なメッセージが込められていて、これまでの選抜は全米オープンジュニアのワイルドカードを渡して『出場することに意義がある』だけになっていたところがあります。でも、私は勝ちに行こうよ!って言っているんです。世界で勝つというサクセスストーリーがあることで、高校テニスのマインドが変わってくると思います」 ――これだけ柳川高校が変わってくると見学、講演、取材などの依頼も多いと思います。 「本を出版していただいただけでもありがたいお話でしたが、おかげさまで売上もよく学校まで問い合わせのお電話をいただいています。『講演に来てほしい』『会いに行ってパワーを貰いたい』とか。学校単位のものであれば対応できていましたが、今の時代は直接個人としてメッセージが来るのがあまりにも多くなってしまい、現在は順次対応させていただいている状況です」 ――うれしい反応ですね。変化を起こし、個が輝いていくことで教育が変わり、日本の子供たちが変わっていく予感があります。 「重なるようですが、サクセスストーリーというのがキーワードで『選抜から全米オープンジュニアのチャンピオンを出そう!』というのは大切なメッセージだと私は考えます。それがあれば『テニス界のマインド』『高校テニスのマインド』も変わると思っています。今の状況からすると、難しいことだと考えてしまうかもしれませんが、『夢は叶うと信じて、行動していかないと何も変わらない』のではないでしょうか。だから私は夢を語りつづけていこうと思っています」 ――日本テニスのマインドの変化を楽しみに応援していきたいと思います。貴重なお話をありがとうございました。
知花泰三