大谷翔平30歳、“ピーク”はまだ先にある? 結婚した理由は? メジャーリーグでの軌跡をインタビュー記録でたどる【書評】
メジャーリーグ、ロサンゼルス・ドジャースの大谷翔平がホームラン50本、50盗塁の「50-50」を達成した際のホームランボールが6億6000万円で落札されたというニュースを見て思わず「6億!」と声が出た。額がケタ違いで6億が高いのか安いのかも分からない。
大谷をテレビで見ない日はない。普段スポーツニュースをチェックする習慣のない人間でも彼の姿は毎日見る。世間は彼の一挙手一投足に注目している。 『野球翔年Ⅱ MLB編2018-2024 大谷翔平 ロングインタビュー』(文藝春秋)は大谷がロサンゼルス・エンゼルスに入団した2018年から、ドジャース移籍を経た2024年まで、ベースボールジャーナリストの石田雄太が7年間にわたりインタビューした記録だ。 大谷についての情報はメディアを通して毎日届けられているが、その一つ一つは断片的なものである。だが本書では1人のインタビュアーが、大谷の話を“聞き続ける”ことで、彼がいつ何を考え、どう行動したのか、大谷翔平という人間の思考が浮かび上がってくる。 「50-50」を成し遂げ、各賞を軒並み受賞、まさに飛ぶ鳥を落とす勢いの大谷だが、2020年のインタビューの中で「フィジカル(身体面)で目指すところ」を問われて次のように答えている。 「18歳でプロに入ってずっとトレーニングしているうちに、理想のフィジカルが決まってきたと思うんです。30歳がピークかな。フィジカルに技術がマッチしてくるのが30歳から35歳くらいですかね。その年齢ってフィジカル的には落ちてくる時期ですけど、その分、経験や技術の部分で折り合いをつけられる」 この答えを聞いたあと、石田は毎年のように同じ質問をしている。大谷の答えはいつも同じだ。そして2024年。ピークを迎えるという30歳になる年、石田が「考え方は今も変わっていないんでしょうか」と聞くと、大谷はこう答える。 「変わらないです。今のところはフィジカルがかなりいい状態だと思っていて、これがこの先、どの程度まで行けるのかというあたりは、どうなんでしょうね……もしかしたらフィジカルの向上具合で言えば、もうちょっと先があるのかもしれないな、と思うところもあります。となれば、ピークはもう少し先まで延ばせるかもしれません」 このインタビューの後、大谷は本当に、30歳にして過去最高といえる結果をたたき出し、まさにピークを迎える。いったいどれだけ自分自身のことを正確に理解しているのだろうと驚かされるばかりだ。さらに「ピークはもう少し先まで延ばせるかもしれません」とまで語っているから、言葉通りにいけば、まだまだ快進撃は続く。 大谷はその30歳になる直前に結婚をした。インタビューという行為の面白いところは、自分からは話さないようなことも、聞かれたら答えるところである。結婚を決めた理由を聞かれた大谷は「野球に関しては結婚することでのプラスはあってもマイナスはない」と率直に答える。 「単純に、生きていく楽しみが増えるということです。野球をやっていれば打てない、抑えられないときもあるんですけど、もしそうなったとしたらそれは自分の実力がなかったというだけじゃないですか。そんなの、私生活のせいであるはずもなく、そこはまったく別のものとして切り離せばいいことですからね。人生って必ずしも順調にいくわけではありませんし、そういうときでも楽しみがあったほうがいい。何事においてもそれだけ充実する、ということがプラスなんだと思います」 野球のみならず私生活への姿勢においても、自身を冷静に見つめる隙のなさ。本書から、まだまだ続く大谷翔平の活躍を確信した。 文=堀タツヤ