[懐かし名車] いすゞ ジェミニ(初代):日本メーカーのクルマづくりに一石を投じた国際共同開発車のパイオニア
魅力的なモデルの追加も強力なライバルたちに追いつく武器とはならず
初代ジェミニが登場した1974年頃は、日本でもモータリゼーションが完全に定着しようとしていた時期。そのけん引役がトヨタのカローラと日産のサニーだった。 ジェミニの誕生と前後して3世代目に突入した両車は、良くも悪くも日本人の自動車観を形成する「原器」のような存在だった。1966年の初代モデルの対決では、合理的な作りと素直で軽快な走りが特徴だったサニーを、より大きく、豪華でスポーティと謳ったカローラが撃破。以後、追いすがるサニーをカローラが突き放すというデッドヒートが繰り広げられた。 そんなプロセスで確立された日本人のクルマの嗜好は、お隣よりも大きく豪華で見栄えがいいこと。要は巨大でメッキだらけだった当時のアメリカ車の縮小版だ。それは、クルマとしての本質や個性で勝負するシックな欧州車、ジェミニとは違う方向性だったのだ。 ◆ステアリングはスポーティーな3本スポークを採用。従来型と同様、センターコンソールに3連メーターを装備。その下にはリモコンミラーの角度調整レバーを備わっている。 ◆初期型ZZ/Tのクロスツィード調シート。レッド&ホワイトのほか、ベージュ&ホワイト、ブラック&ホワイトも選べた。ちなみにZZ/Rはブラックのビニールレザーシート、ZZ/Lは「Gemini」のロゴ入りのジャガード織。 その一方でスポーツ派は、タイトなワインディングでの機敏な身のこなしを求めた。基本性能が未熟な当時の大衆車をベースに、そうした方向性のスポーツモデルを作ると、ガチガチの硬い足にクイックなステアリングを組み合わせた、レスポンスばかりが敏捷なハンドリングになった動力性能も、数値上の最高出力を高めたエンジンとローギヤードのパワートレーンで、発進加速タイムを重視したシグナルGP仕様。 かくして国産スポーツモデルの多くは、限界性能は低いくせにやたらと刺激的な、未熟な高性能車になってしまっていた。それは街中でのゴーストップが多く、国中に狭い山岳道路が存在する日本の交通環境には合っていたかもしれないが、本質的に優れたクルマの素性とは程遠かった。