[懐かし名車] いすゞ ジェミニ(初代):日本メーカーのクルマづくりに一石を投じた国際共同開発車のパイオニア
ベレGの再来「じゃじゃ馬」ZZとディーゼルモデルの追加
そんな国産車しかない中に、充実した高速道路網を背景に、どこまでも全開で走り続ける、文字通りのグランドツーリングの文化からやって来たジェミニは「これぞ本物」と彼の地に憧れる人々を熱狂させた。一方で、カローラやサニーと比べる人々には「色気のないクルマ」と映った。デビューから5年、1979年に加わった、いすゞオリジナルのDOHCエンジンを積むZZ(ダブルズィー)は、目の肥えたスポーツ派には歓迎され、ラリーでも活躍したが、販売実績ではセリカGTやカローラレビンと勝負にはならなかった。 同じ年に投入されたいすゞ得意のディーゼル車も、おもに高い経済性から好評を得て以後のジェミニの主力モデルとなったが、フルモデルチェンジでリフレッシュするライバルたちとの差を詰める起爆剤にはなりえなかった。 ◆ZZシリーズの中でもラグジュアリーな内外装を身に纏ったZZ/Lセダン。 ◆ZZシリーズに搭載されるG180型エンジン。従来のSOHCからDOHCに換装され、最高出力130p /最大トルク18.5kg-mを発揮した。
ワールドカーの血を引きデザインと独自技術で異彩を放った歴代ジェミニ
いすゞというメーカーは、黒船の来襲に備えるべく、江戸幕府が設立した石川島造船所にルーツを持つ。以後も近代日本の成長とともに歩み、日本中からエリート技術者を集めた名門企業だ。 戦前からバスやトラックで日本の経済と産業の礎を築き、戦後に乗用車作りを志したころには、トヨタや日産をしのぐ自動車メーカーだった。英国のヒルマンのノックダウン生産で乗用車作りのノウハウを学んだ後に、初のオリジナル乗用車ベレルでクラウン級の高級車を目指したのも、歴史を振り返れば当然のことだろう。 その技術力は高く、1963年に投入した初の小型車、ベレットも先進的なサスペンションや日本車初のディスクブレーキなどを備えて、目の肥えたクルマ好きに愛された。 ◆ZZ/Tに標準、ZZ/Rにオプション設定されたヘッドランプウォッシャー。ちなみにヘッドランプは1980年代に入って急速に普及したハロゲンランプ。 ◆ZZシリーズにはデュアルエグゾーストパイプを採用。排気をスムーズにし、エンジンパフォーマンスを最大限に引き出すスポーツ車の必須アイテム。 ただし、政府御用達の重厚長大企業にありがちな、庶民相手のビジネス感覚の欠如はなんともしがたかった。ベレットは発売当初こそ話題を呼んだが、1973年まで10年もモデルチェンジなしの商品計画は、トラックのやり方。その間にどんどん進化するライバルに、太刀打ちできるはずがなかった。 そうして経営の傾いたいすゞは、1971年に日本企業の資本が自由化されると、世界の名門、GMに出資を仰ぐ。かくして、グループとなったオペルの基本設計に自前のエンジンや内装を組み合わせ、ベレットの後継車として誕生したのがジェミニだ。1973年に発売する予定が、同年秋のオイルショックで翌年になったが、その優れた素性は一定の支持を得て、ベレットの生産設備を使って安く作ることにも成功したジェミニは、いすゞの屋台骨を支える存在になる。 だがけっきょく、重厚長大病は治らなかった。5速化やフェイスリフトなどの商品力強化はしたが、後継車が出ない。目玉となるDOHCやディーゼルを積んだのが、カローラやサニーが華麗なフルモデルチェンジを遂げた1979年では、そのインパクトは半減。 1985年にようやく2代目のFFジェミニが誕生し、国内ではユニークなCMとあいまって話題を呼んだものの、GMのRカーとして世界戦略を担うはずだった輸出は、1981年に始まった米国向けの日本車輸出自主規制のあおりで計画が狂うという不運にも見舞われた。初代ジェミニは1987年まで2代目と併売されて商品ラインナップの弱さを補完し、3代目ジェミニも1990年に発売にこぎつけたが、いすゞは1992年に、乗用車の自主開発からの撤退を表明する。以後のジェミニはホンダドマーニのOEM車となり、5代目を最後についに消滅してしまった。 ◆いすゞの独自開発となった2代目は、前輪駆動を採用するとともにボディやエンジンを小型化、国産大衆車のスタンダードへとクラス替えを果たす。「街の遊撃手」のキャッチ、クルマが踊るように走るTV-CFに加え、欧州車を思わせるクリーンなボディシルエットで初代を超える販売を記録。豊富なボディカラーやセンスのいいインテリアなどで、20代後半~30代のヤングアダルト人気が高かった。 ◆1985年に登場した2代目は、初代との差別化するために当初はFFジェミニと名乗っていたが、マイナーチェンジ時にFFがとれて、正式にジェミニとなった。
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月刊自家用車編集部