なぜ東京五輪代表の一山麻緒は周回コース&男子ペースメーカーの好条件でも日本記録を更新できなかったのか?
一山は野口さんが保持していた大会記録(2時間21分18秒)を18年ぶりに更新したが、記録の“価値“は15~20年前とずいぶん異なる。なお、今回は通常のコースではないため、野口さんのタイムも大会記録として残るという。 野口さんがアテネ五輪で金メダルを獲得した翌年の2005年時点では、世界歴代で2時間20分を切っているランナーは6人しかいなかった。うち3人(野口みずき、渋井陽子、高橋尚子)が日本人だった。当時世界歴代3位だった野口さんの記録は現在、世界歴代19位まで転落している。 2019年はブリジット・コスゲイ(ケニア)が2時間14分04秒の世界記録を樹立しただけでなく、2時間20分を切った選手が12人(エチオピア7人、ケニア4人、イスラエル1人)もいた。 今夏には東京五輪が開催される予定だが、日本の女子マラソンはスピード化が顕著な世界と戦うことができるのだろうか。 瀬古リーダーは、「東アフリカ勢は2時間20分を切るタイムを持っています。(東京五輪で)格上の選手たちと戦ううえで、ないものは記録。自信を持ってスタートラインに立つには2時間20分を切る記録をださせたかった」と話していたが、世界のレベルを考えると日本記録(2時間19分12秒)をさらに1~2分は上回るタイムが欲しかったところだ。 解説を務めた日本記録保持者の野口さんも、「前半は手に汗を握るハラハラする思いで見ていました。でも後半は少し疲れが出てしまったのかな。今回は1周2.8kmの周回コース。気分転換できないので私だったらこんなタイムで走れなかったのかなと思います。ただ世界との差は広がりつつあります。一山選手(23歳)と前田選手(24歳)はまだ若いので世界との距離をどんどん縮めてほしいなと思います」と後輩たちにメッセージを送った。 ここから東京五輪に向かう一山は、「夏にやろうが冬にやろうが、条件は一緒なので、暑さ、寒さは気にしていません。東京五輪に向けては、監督のメニューをしっかりやって、最高の準備をしてスタートラインに立てるように頑張りたいと思います」と“鬼メニュー“をこなす覚悟を決めている。 福士加代子が何度も世界に挑戦してきたワコールは世界との差を客観視できるチーム。これまでの日本人がやってこなかったハイレベルのトレーニングに取り組み、世界大会の「メダル」を本気で目指してくれることだろう。 (文責・酒井政人/スポーツライター)