人間も自然の一部である感覚を思い出す…海外でも人気が高い「森林浴」の新しい形[FRaU]
まずは森に入りましょう、と案内してくれた場所は、東京都八王子市にある長沼公園。京王線長沼駅から徒歩5分という立地にあり、周辺には住宅街が広がるが、一歩足を踏み入れれば、公園というより里山の森。クヌギやコナラを中心とする雑木林に覆われ、湧き水が流れ、蛍が飛ぶ。森に入り、10分ほど歩いた場所で立ち止まる小野さん。
「ここで好きな方向を向いて、目を閉じてください。人間には五感、五つの感覚があります。見る、聞く、香る、触れる、味わう。日常生活では、感じることの8割以上を目に頼っているといわれます。目を閉じた時に、他の感覚がどんな感じか探ってみましょう」 数分後、大きく深呼吸をして目を開け、どの感覚が一番響いたか確認をする。森の香り、肌に触れる風の心地、川の流れる音、葉が揺れる音……。普段、いかに視覚以外の感覚が鈍くなっているか気づかされる。さらに歩を進めると、山椒やクレソン、桑の実、クロモジ、木いちごなど、馴染みのある植物が至る所に生えていることもわかる。
「ちなみに、これは“ハグツリー”と呼んでいるものです」と少し斜めに立っている大きな木に身を任せて、ハグする小野さん。同じようにもたれかかると、どっしりとした木に抱きしめられているかのような心地よさ。他にも木漏れ日で遊んだり、森の中で昼寝したりと、小野さんのガイドによる森歩きは新たな発見の連続で、ただただ気持ちがいい。 「その感覚だけでいいんです。癒やしの効果という意味では樹木が虫などから身を守るために放出するフィトンチッドと呼ばれる物質がありますが、その芳香成分に人間をリラックスさせる効果があると実証されています」
森を人の健康に活用したいと、長年メンタルヘルス事業に携わってきた小野さん。現在は森林浴を通して森林空間の活用を試みる。 「国土の大部分が森なのに、ほとんど放置されている現状を変えたい。木を伐るだけでなく、森を空間ごと使う発想で、健康や教育、観光など新たなサービスを提供する。それによって全国の森にお金が落ち、整備される仕組みを作りたいと思っています」