RIZINの那須川vs堀口戦はなぜ格闘史に残る名勝負になったのか
攻撃の手数と最終ラウンドのダメージを考慮すると、ジャッジの評価は妥当だった。 堀口も「3ラウンドにキックをもらったり、自分の手数が少なかったので判定はしょうがない」と結果を受け入れた。だが、那須川は、元UFCトップファイターを「獣」と表現したが、堀口は20歳のキックボクサーを「人でした」と評した。 「思うような攻撃はできた。(彼の蹴りは)ブロックしているので致命傷にはなっていなかった」 それが堀口の本音でありプライドだったのだろう。 「日本を盛り上げるために(UFCから)帰って来たので(会場が盛り上がったのは)満足ですが、負けているので、そこは練習が必要」 フロイド・メイウェザー並みの動体視力と反射神経で天心のパンチのほとんどを見切っていた。パンチは素ウェーとステップ、キックはブロックと距離を微調整することで殺した。 那須川に距離を少し詰められたことで、遠くから一撃必殺を完璧に打ち込むことはできなかったが、常識の枠では、計算も対策もできないパンチは、天才キックボクサーに恐怖を与えた。 本来ならば、交わるはずのなかった2人の格闘家が、異種ファイトで見事に融合してスイングしたのは、まぎれもなく堀口の格闘家としての高いポテンシャルが理由だった。伝統派空手、そして、亡き恩師のKIDからインスパイアされた格闘家の“幅”が日本の格闘史に残る名勝負を生み出したのである。 堀口は14年前の魔裟斗vs山本“KID”徳郁戦と、この試合を重ねて「その試合が目標なので、まだまだ超えられていないかなと」と言った。 社会的な背景も違う2つの試合を比較することはナンセンスだが、14年の間に起きた大きな技術の進化と、その高貴なスピリットだけは、時代が違えど、なんら変わらぬことを示した。 忘れてはならないのは、勝者が那須川だったということ。 「KOを狙いたかったが、それ以上に堀口さんがよかった」と言うが、3分×3ラウンドの9分間に恐怖を克服し倒しに行った。“神童”の名に恥じない、何が出てくるかわからないスペクタルなファイトで観客を魅了した。 「3分、3ラウンドが、長かった。楽しかった。天下分け目。この先の格闘技人生が決まるような試合だと考えていたが、人生の節目のような試合ができた。今後がどうでもよくなるような非日常的な時間だった」 20歳の若者の表情が試合数日前に比べて変わったように思えた。