RIZINの那須川vs堀口戦はなぜ格闘史に残る名勝負になったのか
凄まじい心理戦が展開されていた。 そして、それを那須川も楽しんでいた。 「駆け引き、見合う時間が長かったが、濃密な時間、ひとつひとつの攻防がゆっくりなんです。こっちきた、こう返そう、フェイントとかすごく考えさせられた」 日本の格闘技史上、前例のないほど、スピーディーなファイトが、とても、ゆっくりと感じたのはアスリートの世界で「ZONE」と呼ばれる究極の精神世界に入っていたのかもしれない。 このラウンド、2度のローブローで試合が止まるアクシデント。実は、彼らが、揃って「あの試合以上のインパクトを」と口にした14年前の魔裟斗対故・山本KID徳郁戦も魔裟斗のローブローで試合が中断するシーンがあった。14年の時を越えて一致した偶然のアクシデントだったのかもしれない。 だが、那須川に容赦はなかった。終了間際に左右のフックから瞬きもできないほどの猛ラッシュを仕掛けた。息のできないほどスリリングな試合はついに最終ラウンドへ。序盤はキックの攻防。堀口の右のハイキックの膝付近が那須川の顔面をとらえたが、表情は変えない。勝負をかけた堀口の飛び込むパンチが増えてくると、那須川は右のジャブを増やしてバリアを張るように牽制した。 堀口の飛び膝蹴りを那須川が叩き落とす。 ここからは那須川の独壇場だった。得意の胴回し回転蹴りの踵が堀口の左テンプルをかすめた。一気に追い詰めようとしたが、総合流のタックルで押し倒された。しかし、ロープを背負わせ左ストレートがヒット。初めて堀口が下がり棒立ちになった。左ミドルの3連発はすべてブロックされたが、圧力をかけておいて、ワンツーを浴びせると、また左が当たる。那須川の勢いは止まらない。再び、クルっと体を回転させて、胴回し回転蹴りを浴びせると、その踵がテンプルをとらえた。足がもつれ両者が倒れた。起き上がろうとする堀口の目は、うつろ。焦点があっていなかった。明らかに効いていた。 「(堀口の)表情が濁った。すごい感触があった」 チャンスは逃さない。那須川はコーナーから助走をつけて飛び上がって前蹴り。最後の勝負だった。しかし、堀口は、死んではいなかった。鋭いステップバックで外す。試合終了のゴングと同時に那須川は、勝利を確認したかのように左手を挙げた。 「30-29」、「29-28」……ここまでジャッジが読み上げられ天心の右手が上げられると、残り一人のジャッジ「30-28」は、もう大歓声にかき消された。その瞬間、涙を見せた那須川は、リング上で「堀口選手がキックのルールで戦ってくれたことに感謝します」と第一声。そして「人間と戦っているんじゃない。動物、獣みたいな感じでした。一歩間違えると自分がやられる。そんな試合でした」と続けた。