VW排ガス不正 ディーゼルは終わりなのか? 日本は大丈夫なのか?
■VWだけの問題なのか
さて、気になるのがこの問題がどこまで拡大するかだ。北米とカナダは完全にアウトだ。しかし欧州ではユーロ5の規制には準拠しているので、常識的に考えると問題にはならないだろう。問題の本質は欧州と北米の排ガス規制のギャップを無理やり乗り越えようとしたことにあるのだ。 と、ここまで書いたところで信じられない続報が入った。報道によれば、フォルクスワーゲンがドイツでも同様の不正を行っていたことをドイツの運輸相が明らかにしたのだ。言葉を失う。まだニュースは速報レベルなので、詳細はわからない。 しかしこれが事実なら話は変わってくる。ドイツで不正を働かなければならないとすれば、ユーロ6規制だろう。いくらなんでも緩いユーロ5をクリアできなかったとは考えにくい。ということはユーロ5規制適合車で北米のTier2 Bin5をごまかすために使った手口を、欧州内でも行って、ユーロ6適合を不正に取得していたことになる。 前述の様にユーロ6規制の施行は昨年からで、とりあえず新型車のみが対象。継続販売車に関しては2015年9月まで許されているため北米より対象となる期間は限られるはずだが、いかんせん母数が多い。欧州ではディーゼルは非常にポピュラーなのだ。 地域的には、カナダを含む北米と日本。欧州と欧州基準に準拠した中国。南米やロシア、インド、ASEAN、アフリカの基準までは分からないが、限りなくどこでもアウトになるだろう。事実上の「全世界リコール」だが、最新の排ガス規制の適合は部品の交換や後付けで簡単にできるものではない。各国省庁から緩和措置が得られず、厳格な処分を下されたらクルマを丸ごと新車に交換する以外に手がなくなるはずだ。しかもそのために本当にユーロ6に適合するエンジンを作らなくてはならない。もはやブランド・イメージの失墜がどうのという話ではなく、債務超過の危機だ。 さて、この問題は果たしてフォルクスワーゲン固有の問題なのだろうか? フォルクスワーゲンの制御プログラムを作っているのはドイツのメガサプライヤー、ボッシュだ。もちろんボッシュが単独でできることではない。フォルクスワーゲンのオーダーか、協議があってこうした不正プログラムを作成したはずで、その共犯責任がどうなのかは司法の範疇で、誰の何の証言も聞いていない筆者が書くと完全な予断になってしまう。これについては推移を見守りたい。 フォルクスワーゲンとボッシュがそういう“抜け穴”を使っていたことは、ボッシュをサプライヤーとして使う他メーカーも知っていた可能性は高い。「何故フォルクスワーゲンはユーロ5規制のクルマを北米で売れるのか?」「何故フォルクスワーゲンのクルマはユーロ6をクリアしながらあれだけの出力が出ているのか?」と問い詰められれば、言い訳のしようはないからだ。 そこで他メーカーが、裏プログラムのカラクリを聞いた時に、どういう判断を下したのかが重大な問題だ。すでに外紙の一部はBMWも欧州規制に対して同様の不正があった可能性について記事にし始めている。いまのところBMWはこれを否定しているが、今後どうなるのかはまだ分からない。一歩間違えば、ボッシュにシステムを発注している欧州メーカー各社が芋づる式に連座する可能性があるのだ。 もうひとつ日本のメーカーは大丈夫なのだろうか? 実はディーゼルエンジンに関しては諸般の事情で日本のメーカーは出遅れた。結果的に近年の国産ディーゼルは規制強化後のユーロ6と日本の厳しい規制を視野に入れて開発されている。特に日本では国交省や都による抜き取り検査が行われているため、不正をすれば早期に摘発される。過去にいすゞが摘発されたことがあり、リスクが高いことはよくわかっているはずなのだ。 最新の排ガス規制に準拠するためには従来の高圧縮比のディーゼルでは難しいため、低圧縮にする手法が取られている。圧縮比を下げるとNOxの発生は抑制されるからだ。一例として、最近ディーゼルに力を入れているマツダなどは、圧縮比をディーゼルの常識では考えられないほど下げている。当然、欧州勢に比べてパワーでは不利になるが、それでも圧縮比を落としたのだ。 もはや何を信じたらいいのかは分からないので絶対とは言わないが、順当に考えられる限り、ここまでやって規制に引っかかるとは考えにくい。マツダのディーゼルシステムは日本のデンソー製だ。長年にわたって日米の厳しい排ガス規制を潜り抜けてきた会社だけに、正攻法でクリアできていると考えていいと思う。ちなみにデンソーのシステムを使うのは他に、トヨタやボルボ、ジャガー・ランドローバーなどだ。