衝撃のRIZINデビューを飾った”キングカズ”次男の三浦孝太は格闘界の”キング”になれるのか…スター候補に敷かれた英才育成計画
ラウンドが終わると同時に勝利を手にした孝太は、実は思い描いていたパフォーマンスの一部を逡巡した末に封印している。ゴールを決めた父が代名詞としてきたカズダンスをリング上で舞わずに、右手を突き上げるフィニッシュだけにとどめた。 「ちょっと悩みましたけど、カズダンスは長年にわたってサッカーを誰よりも愛してきたお父さんが、ファンの方々と一緒に作り上げてきたものなので。僕が簡単に踊っていいものではないと思い、最後のポーズだけを真似させてもらいました」 こう語った孝太は、すぐにリングサイドに降りてカズの胸へ飛び込んだ。感極まっていたからか。熱い抱擁を交わした間にかけられた言葉は「おめでとう」しか覚えていない。瞳を潤ませている母親のりさ子さんとも抱き合った孝太は、再びリングに上がった後のマイクパフォーマンスの最後にこんな言葉を発している。 「格闘技界のキングになれるように頑張るので、僕のファンになってください!」 カズの前に初めて「キング」が添えられて、30年近い歳月がたとうとしている。アリーナを魅了する戦いを演じた次男から、畏敬の念とともに“枕詞”を拝借されたカズは、手に汗握る熱戦を繰り広げた対戦相手へ粋な計らいを見せていた。 「白い服装なのに、試合後には血だらけの僕にハグしてくれたんです」 YUSHIが嬉しそうに明かした。強敵を抜きにして好勝負は成立しない。そして、グッドルーザーの存在が勝者をさらに成長させてくれる。ブラジル時代から勝負の世界を駆け抜けてきたからこそ、カズはYUSHIを抱きしめて感謝の思いを伝えた。
日付が2022年の元日に変わってから大会を総括した、榊原信行CEOは「圧倒的に印象に残ったのは三浦孝太ですね」と称賛した。端正なマスクとポテンシャルあふれる戦いぶり、ドラマのようなフィニッシュ。そのすべてがスター候補にふさわしい。 榊原CEOは、今後は選手の再生や発掘、育成などをテーマにして昨年11月に神戸からスタートしたオクタゴンでの戦い「TRIGGER」大会に孝太をコンスタントに出場させていく方針を明らかにした。 「何よりも実戦が強くなるための最も早い道だと思いますので、(BRAVEの)宮田(和幸)コーチとも話をしながら、まずはTRIGGERのエースにするべく、素晴らしかったデビュー戦に続く2戦目を早いタイミングで組めたらいいなと考えています」 2月23日に、次回の「TRIGGER」大会を静岡エコパアリーナで開催することが決まったことも発表された。ここが注目の2戦目になる可能性もあるなかで、孝太自身は足元および現在地をしっかりと見つめている。 「自分としてはこのRIZINの舞台が一番好きなので、また話をいただけたらチャンスをつかんでいきたい。ただ、終わった後は想像以上に腕などが疲れていた。実際ならば5分3ラウンドなので、それに対応できる身体を作っていかないといけない。とにかく過信することなく、コツコツとやっていきたいと思っています」 ともに総合格闘技のデビュー戦とあって、YUSHI戦は3分3ラウンドが採用された。レベルをあげた先にはもっと、もっと過酷で激しい戦いが待つ。身長175cm体重66kgの身体に宿る能力を「普通です」と公言する孝太は、冒険にも映る挑戦を地道な努力を積み重ねて進んでいく姿勢もまた、父親の背中から学んだと語ったことがある。 「お父さんも身体能力は普通だけど、努力で夢をかなえてきたと言ってくれました。僕もその血を受け継いでいるので、どんな冒険になっても大丈夫です」 真剣勝負が無傷で済むはずがないと、病院で正月を迎える覚悟で臨んでいた孝太は、正月の予定を「いっさい決めていない」と苦笑いする。第1試合で登場した「RIZIN.33」を勉強のために最後の第16試合まで見届けたホープは、おそらくは家族と過ごす2022年の幕開けを新たなエネルギーに変えて、プロ格闘家の道をさらに力強く歩んでいく。 (文責・藤江直人/スポーツライター)