J1昇格へ邁進する福岡の裏に井原監督と経営力
ファンやサポーターを驚かせる派手さはない。対戦相手を蹴散らす圧倒的な破壊力があるわけでもない。それでも、90分間を終えればしっかりと白星を手にしている。 大詰めを迎えたJ2戦線で、アビスパ福岡が無類の強さを発揮している。敵地で8日に行われたザスパクサツ群馬戦で4ゴールを奪取。守っては相手をシュートわずか3本で零封して6連勝を飾り、首位の大宮アルディージャに4差、2位のジュビロ磐田に2差の3位をキープしたまま、J1へ自動昇格できる2位以内をかけてラスト2戦に臨む。 開幕戦から3連敗を喫した時点で、ここまでの快進撃を誰が予想できただろうか。しかし、今年から指揮を託された元日本代表主将、井原正巳監督の決断が苦境を逆転させる。 4バックから3バックにスイッチしたのはコンサドーレ札幌との第3節。ミス絡みの失点で敗れはしたものの、内容に手応えをつかんだことで第4節以降も3バックが継続された。 まずは失点を減らして「負けない」サッカーを実践する。昨年はリーグで4番目に多い60失点を数え、16位に低迷した福岡に実戦を通じて堅実さと自信を植えつけた。 第4節から11試合連続無敗がマークされ、一時は最下位に低迷した順位が5位にまで急浮上した。その間にあげた8つの白星のうち、実に6度が1対0のスコアだった。 「守備をしない選手は使わない」 福岡を再建させるための信念を貫いた井原監督は、前半戦の戦いをこう振り返る。 「守備が安定しなければ攻撃も機能しない。システムを変えながらも勝つことで、チーム力をあげることが必要だった」 40試合を終えた段階で、失点は36にまで圧縮された。福岡一筋で11年間プレーしてきたキャプテンのMF城後寿は、現役時代は日本代表の不動のセンターバックを務め、「アジアの壁」なる異名をとった新監督のもとでの変化をこう語る。 「監督はサボる選手が嫌いなんだと思います。当たり前のことをしっかりとできないのは、プロとしてどうなのかと練習の段階から常に細かく求められているので、僕もそういう点をしっかりと実践しつつ、個性を出していこうと」 井原監督は現役時代から、真面目で誠実な人柄をプレーにも反映させてきた。初めて監督を務めた福岡でのチーム作りにも、それが確実に浸透していった一方で問題も発生する。 42試合の長丁場を戦うJ2は、けがのリスクと背中合わせとなる。福岡も例外ではなく、夏場に入って濱田水輝らのセンターバック陣が戦線離脱を強いられた。最終ラインを構成できない苦境を救ったのが、福岡大学から加入したルーキー田村友だった。 7月25日の京都サンガ戦でデビューを果たして逆転勝利に貢献すると、その後は群馬戦まで17試合連続で先発フル出場。MFの登録ながら最終ラインで185cm、88kgの高さと強さを存分に発揮した。 「試合に出ていないときから、やれる自信はあった」 デビューまでの軌跡をこう振り返る田村は、幼いころから地元福岡の大ファン。晴れて入団を決めた直後に、井原監督の就任が決まった。 「1年目から『アジアの壁』と呼ばれた井原さんに監督として練習を見てもらえるのは本当に嬉しいし、運がいいとも思っている。練習から自分の武器を生かしたプレー、球際の強さなどの持ち味をしっかり出せと常に言われますし、ちょっとでもサボったり、手を抜いたりしたときは厳しく言われますね」 田村によれば、開幕前のキャンプから何度も言われた「ハードワーク」という言葉が、最近では聞かれなくなったという。戦う集団の土台をなす泥臭さや運動量が、当たり前のものとして浸透した証といっていいだろう。 実直な指導のもとで急成長を遂げた田村の存在は、相手の陣容などに応じて3バックと4バックを使い分ける柔軟な采配をも可能にした。