J1昇格へ邁進する福岡の裏に井原監督と経営力
同じく4対0で勝利した前節の横浜FC戦で、福岡は4バックを敷いている。一転して187cmのFW小牟田洋佑に181cmの攻撃的MFウーゴが絡み、ベンチには188cmのFWタンケが控える群馬には、田村とけがから約4ヶ月ぶりに復帰を果たした186cmの濱田が必要と判断したのだろう。 「あまり選手を褒めるのはよくないんですけど…」 試合後の記者会見で苦笑いしながら、井原監督は濱田を中央にすえた3バックの右に入った田村を高く評価する。 「フィジカルが非常に強く、高さもあるなかで、もともとはボランチだったので攻撃をしっかりと組み立てられるのも武器。4バックにも3バックにも対応できるクレバーさもある。チームが苦しいときにレギュラーを取って、その後も好調をキープしている。非常に大きな存在になっている」 そして、田村がデビューしたほぼ同じ時期に完全移籍で加入したFWウェリントンが、福岡にさらなる力を与える。 昨年は湘南ベルマーレでリーグ2位の20ゴールをマーク。実力は折り紙つきだったが、高年俸がネックとなって契約更新が見送られ、母国に戻っていた。 昨年までの福岡ならば、おそらく獲得できなかったはずだ。しかし、今年3月に新社長に就任した川森敬史氏が、2013年度末には債務超過に陥っていた経営を劇的に建て直す。 アパマンショップホールディングスの常務取締役としてふるってきた辣腕を、サッカー界でも発揮。昨年は空白だった胸スポンサーが福岡地所に決まったのは序章で、1000社の目標を掲げたスポンサー獲得ですでに9割強を達成。昨年は約5000人だったホームの平均観客数も8340人に激増している。 一気に強化された経営力が、このオフにもリストアップしながら見送ったウェリントンの獲得につながった。圧倒的な存在感を放つ1トップが加わった効果を、背後でシャドーを務める城後はこう語る。 「ボールをほとんど収めて時間を作ってくれるので、後ろの選手は攻め上がりやすい。ウェリントンに数人のマークがつく分、スペースも空いてくる。攻撃だけがフォーカスされていますけど、守備でも前線から追い回して、チームを助けてくれる。ブラジル人っぽくないところも、彼のよさですよね」 最前線に起点ができた相乗効果で、全員でしっかり守れば必ずチャンスが生まれるという信頼関係がチーム内に生まれる。ウェリントンを軸に前へ攻める圧力が増し、セットプレーのチャンスが増える。 群馬戦で奪った4ゴールのうち、FKから1つ、CKから2つが生まれていた。冒頭で「圧倒的な破壊力がない」と記したのは、セットプレーでコツコツとゴールを積み上げているからだ。 群馬戦で10戦連続無敗となったが、春先の11戦連続無敗との差はスコアに如実に表れている。堅守はそのままに、ここ4試合で15ゴールを奪う試合内容に井原監督も大きな手応えをつかんでいる。 「勝ち切る力だけでなく、追加点を奪っていい勝ち方ができるようになった。ただ、順位は変わっていないし、ジュビロさんも勝ち続けている。力がついたなどと思わずに、そこは謙虚に戦っていきたい」 すでにJ1昇格プレーオフへの出場権は獲得したが、可能性がある限り2位以内を目指す。自力で2位以内に入る可能性はないが、勝ち続けることで大宮と磐田へ確実に重圧を与えられる。堅実力と育成力で福岡を生まれ変わらせた48歳の青年監督は、経営力の後押しを受けながら人事を尽くして天命を待つ。 (文責・藤江直人/スポーツライター)