『大いなる不在』近浦啓監督 初期作は全てにおいて責任を持ちたかった【Director’s Interview Vol.421】
初期作は全てにおいて責任を持ちたかった
Q:近浦さんは、監督だけではなく、企画プロデュース、出資、脚本、編集と、映画作りにおいてご自身で何役もこなされていますが、なぜこのスタイルなのでしょうか。映画制作はどのように学ばれたのでしょうか。 近浦:映画監督における1作目と2作目は、新人と言われる部類で、映画作家としての歩みの原点になるもの。自分らしく筋の通ったものを作りたかった。映画製作は規模が大きくなればなるほど、自分で出資することは現実的に難しくなります。ですが、1作目と2作目だけは、分相応の規模で監督だけではなく、脚本から編集、資金調達まで全部自分でやろうと。そうすれば、良い作品になっても悪い作品になっても全て自分の責任ですので、悔いを残さず作ることが出来る。そこの理由が最も大きいですね。 仮にこの作品の脚本を映画会社やプロデューサーに持っていって、「35ミリフィルムで撮りたいです」と言っても、まず無理だったと思います。『コンプリシティ/優しい共犯』のときも同じでした。だから自分でやろうと思いました。経済面・興行収入面でも良い結果を出すことは、まさにこれからですが、作品としては誇りに思える大切なものができましたので、こうしてやってきて良かったと思います。 映画制作の学びについては独学です。大学の時に、ドグマ95のムーブメントに触発されて友人と一緒に小さな映画を撮ってみましたが、いざ撮ってみたら自分が嫌悪するような画ばかりが撮れてしまい、全く映画になっておらずショックが大きかったです。それで、観ることと撮ることの違いを痛感し、具体的に勉強し始めました。当時創業してまもないアメリカのAmazonを使って、自分が好きな映画のDVDを輸入して、1ショットずつ画コンテとして書き起こすことと、シーンごとに1行ずつノートに要約を書き出すことをひたすら続けました。それが自分の画作りや物語作りの基礎になっていると思います。今でも、自分なりの文体を模索中です。 監督/脚本/編集/製作:近浦啓 2018年、『コンプリシティ/優しい共犯』で長編映画監督としてデビュー。第43回トロント国際映画祭でのワールドプレミアを皮切りに、第23回釜山国際映画祭、第69回ベルリン国際映画祭など、多くの国際映画祭に選出され、日本では第19回東京フィルメックスで観客賞を受賞。2020年に全国劇場公開された。2023年、長編第2作『大いなる不在(英題:GREAT ABSENCE)』が完成し、第48回トロント国際映画祭、第71回サン・セバスティアン国際映画祭、共にコンペティション部門にノミネートされる。サン・セバスティアン国際映画祭では、最優秀俳優賞(藤竜也)、アテネオ・ギプスコアノ賞のダブル受賞を果たす。翌年2024年、USプレミア上映の第67回サンフランシスコ国際映画祭では、長編実写映画コンペティションの最高賞であるグローバル・ビジョンアワードを受賞。 取材・文:香田史生 CINEMOREの編集部員兼ライター。映画のめざめは『グーニーズ』と『インディ・ジョーンズ 魔宮の伝説』。最近のお気に入りは、黒澤明や小津安二郎など4Kデジタルリマスターのクラシック作品。 撮影:青木一成 『大いなる不在』 7月12日(金)テアトル新宿、TOHOシネマズ シャンテ他にて全国順次公開 配給:ギャガ ©2023クレイテプス
香田史生
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