『大いなる不在』近浦啓監督 初期作は全てにおいて責任を持ちたかった【Director’s Interview Vol.421】
IMAX本社で社長と面談、フィルムへの思い
Q:今回は35ミリフィルムでの撮影ですが、なぜフィルムにこだわったのでしょうか。 近浦:「フィルムっぽい画が欲しかったの?」とよく聞かれるのですが、それだけではありません。今はデジタル撮影で何でも出来ますし、ダイナミックレンジもデジタルの最新シネマカメラの方が広いです。画質も綺麗なので、そこから荒らすことだって出来る。つまり、もう何でも出来るところまできていると思います。“ルック”にこだわりたいだけであれば、デジタルで撮っても目的はそれなりの程度達成できると思います。 僕にとってのもっと大きな理由は、レンズに光を通してフィルムに焼き付けるという技術そのものへの憧れです。そして、この技術がなくならないで欲しいという願いもあります。僕自身はプロデューサーでもありますので、無謀なチャレンジだとは理解しつつも、この未熟な監督の願いを叶えてあげようという思いでフィルム撮影を「許可」しました。 ハリウッドでは、IMAX70mmというとてつもないフィルムで撮られている。70mmのフィルムを縦方向ではなく横方向に送り画角を確保するので、一コマの大きさがものすごいサイズです。IMAX社の歴史は60年代後半からですので、とても古いのですが、それが最先端の映画の現場で新しく技術革新をしながら進化していることにとても興味を惹かれます。昨年、トロント国際映画祭に招待されたときに、同じくトロントにあるIMAX本社の見学と面会をさせてもらいました。トロントに行く前にIMAXに何通もしつこくメールを送っていたら、社長から返信があり実現しました。こうした経験も、今の僕の映画製作の地続きにあります。フィルムでの撮影はまだまだやっていきたいですね。 Q:プロデューサーをご自身でやらないと、日本映画でのフィルム撮影は相当難しいですよね。 近浦:おっしゃるとおり難しいですし、仕方ないことかなと思います。こればかりはもう、資本の論理ですから、費用対効果の観点のみからだとその選択はされづらいものがあると思います。 Q:監督の出身地である北九州が舞台となっていて、実際の撮影も北九州で行われたそうですが、その理由を教えてください。 近浦:理由は二つあります。一つは、北九州市のフィルム・コミッションは映画製作に対して大変手厚くサポートされているという理由です。撮影するにあたり、ロケ場所を借りたり、撮影許可を取ったりすることは時間も手間もすごく掛かるのですが、そこを行政に関連する団体が手助けしてくれることによって、とてもスムーズになる。北九州市は映画製作の支援にあたり、観光誘致の側面だけではなく、「私たちが住んでいる自治体は、このように映画文化を支援している」ということから得られるシビック・プライドの醸成も視野に入れていると聞きました。フィルム・コミッションや市の職員の方々の高い志にとても共感しました。 そしてもう1つの理由は、地形です。住宅街のすぐ近くに山が見えて、カメラの向きを少し変えると海まで見える。そしてその海には工場地帯がある。そういったところは意外と少ないです。神戸などは近いかもしれませんが、僕が望んでいた、高低差、海、山、住宅街の組合せとは少し違っていました。北九州市で撮ることが出来てとても良かったです。
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