『大いなる不在』近浦啓監督 初期作は全てにおいて責任を持ちたかった【Director’s Interview Vol.421】
高校生からの憧れ、藤竜也
Q:藤竜也さんとは三度目の映画製作ですが、藤さんとのお仕事にこだわる理由を教えてください。 近浦:僕が「映画を作りたい」と思い始めたのは高校生の頃ですが、同時に「この役者と仕事をしたい」と思ったのが藤竜也さんでした。彼は日本において“映画俳優”というものを体現し、歴史を築いてきた役者です。そして世界でも認知されている。『愛のコリーダ』(76)に出演する際は、仕事を干される覚悟だったそうです。そうやって、素晴らしい作品に犠牲を払いつつも出演してきた。仮に自分が役者だったとして同じ決断が出来るだろうかと。 この『大いなる不在』はアメリカでも劇場公開されることになっていて、7月19日からニューヨーク(以下、NY)で上映が始まります。それを知ったNYのとある映画館から連絡が来て、「藤竜也の映画がNYで上映されるのであれば、うちで『愛のコリーダ』を特別上映するので、藤竜也にぜひ来て欲しい」と打診があったそうです。マンハッタンの劇場が、1970年代の映画を上映して、そこに藤竜也を呼びたいと思うほど、彼は歴史に刻まれるような役者なのだと思います。 僕の映画も、そういった彼の歴史の一部になりたいと思っています。おこがましいですが、最初に短篇映画を撮り始めた時からいつかは藤さんの代表作と呼べるものを撮りたいと思ってきました。その意味では、サン・セバスティアン国際映画祭というヨーロッパの由緒ある映画祭のメインコンペティションで、藤さんは71年の歴史で日本人初の最優秀俳優賞を本作の演技で獲得しました。「あのTATSUYA FUJIだ」とサン・セバスティアンの方々もすごく感激していました。授賞式では僕も達成感を感じて本当に嬉しかったです。 「藤竜也が役者でいる限りは僕の映画に出てもらいたい」と思っていますので、1本でも多く一緒に作りたいですね。僕の方からも藤さんに良い刺激を与えられると良いなと思います。 Q:藤竜也さんと仕事をしたいと思った作品は何だったのでしょうか。 近浦:まさに『愛のコリーダ』です。70年代の混沌とした時代に大島渚監督が放った作品たち、金字塔となる『愛のコリーダ』や『愛の亡霊』(78)などには非常に感銘を受けました。
【関連記事】
- 『お母さんが一緒』橋口亮輔監督 リハーサルの雑談から生まれるものとは 【Director’s Interview Vol.420】
- 『1122 いいふうふ』監督:今泉力哉 & 脚本:今泉かおり 撮影中に家に電話して確認しました【Director’s Interview Vol.419】
- 『違国日記』瀬田なつき監督 初めて会った時から新垣さんは槙生ぽかったです【Director’s Interview Vol.414】
- 『蛇の道』黒沢清監督 オリジナルを知っている自分だけが混乱した【Director’s Interview Vol.412】
- 『かくしごと』関根光才監督 企画・脚本に対してのベストアプローチを採る【Director’s Interview Vol.410】