『大いなる不在』近浦啓監督 初期作は全てにおいて責任を持ちたかった【Director’s Interview Vol.421】
撮影監督:山崎裕との関係
Q:前作に続き撮影は山崎裕さんです。山崎さんとのお仕事はいかがですか。 近浦:いつも楽しくやっています。前作『コンプリシティ/優しい共犯』では、物語上、ある人物をカメラがずっと追いかける構成になっていて、山崎さんの出自でもあるドキュメンタリースタイルをそのまま発揮してもらいました。キーとなる構図はいくつか要望を出しましたが、物語を汲み取ってもらい役者の演技を見てもらった上で、あとは彼の反射神経に賭けていました。例えば、藤竜也さん演じる主人公がルー・ユーライ演じる中国人の若者を逃そうとするシーンがあるのですが、藤さんがルーの背中をグッと押すんです。最初カメラは表情を捉えているのですが、押している藤さんの二の腕の筋肉に力が入っているところに手持ちのカメラが下りてくる。山崎さんはそういうことがパッと出来るカメラマンで、それだけの反射神経を今もまだ持っていますね。 今回に関しては、俯瞰した神の目線での画作りが必要だったので、コラボレーションのあり方は1作目とはだいぶ変わりました。僕の方から構図について様々なリクエストを出し、ディスカッションしながら進めていきました。特にこだわったのは、背景と前景の距離感を無くすということ。例えば、卓が立っていて、その向こうに海が見えるシーン。引きの画にして広角レンズで撮ることが多いと思いますが、そうすると海との遠近感がものすごく出る。逆にものすごい望遠レンズで狙うと、人物と背景の海が合体して2次元になるかのように遠近感が圧縮されます。主人公が迷路に閉じ込められているような、そういう世界観を狙いました。そのようなある種の不自然な画は、山崎さんはいままであまり撮ることはないタイプのものだったと思いますが、今作では山崎さんのフィルモグラフィを拡張したいという思いもあり、お互いに話しながら撮影していきました。今回の作品では、山崎さんが手がけた数々の名作とはまた違う一面が見られると思います。 Q:これまでの山崎さんのスタイルと違う撮影手法を取ることに対して、議論はなかったのでしょうか。 近浦:僕から言うのもなんですが、ものすごく器の大きい人です。前作の撮影以降、山崎さんとは半年に1回ぐらいプライベートで食事をするんです。「あの映画見た、この映画見た」と話を酌み交わす。年齢は違いますし彼は色んな意味で大先輩ですが、まるで親しい友人のような感覚です。ですから現場で、山崎さんに「そっちからではなく、こっちから撮りたいんです」「そのカットは使わないから、撮らなくて大丈夫です」などと言っても、いいディスカッションになる。僕の要望を受けてそれを山崎さんの中で咀嚼してさらに良い形で実現してくれます。 彼はとても野性的な人間ですが、同時にものすごく頭の回転が速いです。僕が「こういう画が撮りたいから、ここに行きたい」と言うと、その思いや意図を瞬時に汲み取ってくれます。そこからプラスアルファの提案までしてくる。これほど楽しいコラボレーションはないですね。
【関連記事】
- 『お母さんが一緒』橋口亮輔監督 リハーサルの雑談から生まれるものとは 【Director’s Interview Vol.420】
- 『1122 いいふうふ』監督:今泉力哉 & 脚本:今泉かおり 撮影中に家に電話して確認しました【Director’s Interview Vol.419】
- 『違国日記』瀬田なつき監督 初めて会った時から新垣さんは槙生ぽかったです【Director’s Interview Vol.414】
- 『蛇の道』黒沢清監督 オリジナルを知っている自分だけが混乱した【Director’s Interview Vol.412】
- 『かくしごと』関根光才監督 企画・脚本に対してのベストアプローチを採る【Director’s Interview Vol.410】