『大いなる不在』近浦啓監督 初期作は全てにおいて責任を持ちたかった【Director’s Interview Vol.421】
森山未來の言語化する能力
Q:森山未來さん演じる卓の職業を、俳優に設定した理由を教えてください。 近浦:これは不思議なのですが、最初に思いついた時点で俳優でした。卓が演劇をしている様子が頭にポンと浮かんだんです。そして、当初から森山さんをイメージしていて、「森山未來と藤竜也を同じフレームに入れるんだ」と、その思いで脚本を形にしていきました。 Q:なぜ森山さんだったのでしょうか。 近浦:2012年に森山さん主演の舞台、「ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ」を観に行ったのがきっかけです。僕は大小問わず演劇を観に行くことが多く、「ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ」はもともとはオフ・ブロードウェイで上演されていたそうですが、それは未見でしたが、2000年代初期に映画化された作品が大好きでした。それで観に行ったのですが、主人公のヘドウィグを演じた森山未來が本当に圧倒的で、強い衝撃を受けました。「いつかこの人と映画を作りたい」と思いました。 Q:実際に森山さんとお仕事をされていかがでしたか。 近浦:思っていた人物像と一致している面もあれば、全く想像してなかった面もありました。自分が想像していた通り、森山さんはすごく野性的な人間だったのですが、逆に同じくらいすごく知的な人間でもありました。物事を抽象化して言語化する能力がとても高い。僕と森山さんで、撮影前に長時間ディスカッションを行いましたが、彼が抱いてる違和感や疑問、あるいは提案といったものをちゃんと言語化してこちらに伝えてくる。映画祭で海外の役者の方と話をする機会があるのですが、森山さんとの会話はその感覚に似ていました。ヨーロッパでは、役者はアカデミズムの中で非常に高度な教育を受けていることが多いそうで、言語化して物事に明確な輪郭を与えることに非常に長けています。森山さんはそれと同じような感じがしました。これほどすごい役者だったのかと驚きましたね。 ビジネス面とクリエイティブ面で分離・対立したディスカッションの場合は、どこかで妥協点を見出す必要があるかもしれませんが、森山さんと僕の議論は、「この物語を遠くの世界まで届けたい」「世界を深く掘り下げたい」という一致した思いがありました。そこは弁証法的にとても良い効果を生みましたね。また、森山さんは役者として演じるキャラクターの話だけではなく、映画全体を俯瞰で捉えた話をされていたのが印象的でした。
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