本屋にして福祉事業所「ててたりと」。「利用者」がつくる、とりたてて意味のある場所
本屋の仕事はすべて「利用者」が担当
思い立ってから約3年が経過した2018年8月、「本屋さん ててたりと」はオープンにこぎつける。14坪の広さに約4000冊、本屋の仕事はすべて、事業所の利用者となる障害のある人たちが担当していて、竹内さんはじめ支援者は基本的に生活支援に携わっている。だからこの店には店長はいない。 「しいて言えば利用者となる障害のある人たちが、その立場を担っています」 オープンして1年と少し経った頃にコロナ禍が猛威をふるったが、ててたりとはB型事業所ということもあり、感染対策を徹底したうえで利用者が通えるように開いている必要があった。その上で書店として開けていたところ、存在を知ってくれるようになった市民も多いという。この6年間の売り上げは堅調ではあるものの、季節でバラツキがあるため、「コンスタントに売れるようにする」ことが目標だと竹内さんは言う。 ざっと棚を眺めてみると、ベストセラー小説や雑誌、マンガのボリュームが多めになっていた。市内一円に配達していることもあり、雑誌もしっかり置かれているのが特徴だ。本のラインナップも店員である利用者が決めているからか、その人の推しと思われる作品に、濃くて長いポップが付いているものも多い。 働いて約1年半になる古本直樹さんに声をかけ、おススメを聞いてみる。すると『ゼロからわかるメソポタミア神話』(イースト・プレス)だと答え、その理由をアツく語ってくれた。メソポタミアに全く造詣のない私だが、聞いているうちに読みたくなってお買い上げしてしまった。 古本さん以外にもレジの打ち方を教わる人、熱心にトイレの清掃に励む人、バックヤードで作業に勤しむ人と、利用者は誰もが自分の仕事に忙しい。居場所でありながらもそこに自分の役割があるとやりがいを見出せるし、買う側にとっては新たな本との出会いに恵まれる。「とりたてて」を逆にした店名だけど、誰かに「こんな場所があった」と伝えたくなるほど、私にとってはちょっと格別な存在に思えた。 「店名をどうしようかと思っていた時に、友人が『とりたてて意味のない読書会』という、ゆるくてのんびりした読書会をしていたのもヒントになりました。利用者の皆さんが暗い気持ちになったり、スティグマを与えられることになったりしないようにしたいと思っていたので、ゆるい雰囲気のこの名前にして良かったなと、今は思っています」 笑顔で語った竹内さんに別れを告げて、再びバスで川口駅を目指す。また近いうちに来ることになるだろうから、まずはメソポタミアを読破してから、新たなオススメを教えてもらおうっと。 こうして私が川口を好きな理由が、もうひとつ増えた1日だった。