<米大統領選2016>ジェブ氏が撤退 “保守本流”はどこに向かう?
見えにくい「保守本流」の動向
実際の予備選は今年2月1日から開始しましたが、その前の支持率上の激しい戦いである「影の予備選」段階では、保守本流といえるような候補が全く伸びませんでした。その代表格が、ジェブ・ブッシュや、クリス・クリスティ(ニュージャージー州知事)です。 おもちゃ箱をひっくり返したような発言を繰り返してきた何とも型破りのトランプが支持率でトップを走り、その対抗馬として、超保守のクルーズが台頭しているのに対し、ブッシュやクリスティの影は極めて薄かったです(クリスティは9日のニューハンプシャー州予備選後、ブッシュは20日のサウスカロライナ州予備選後にすでに選挙戦から脱退しました)。
保守本流の動向に一気に注目が集まったのが、2月1日のアイオワ州党員集会です。同州党員集会で、中道であるマルコ・ルビオが、予想以上に僅差でクルーズとトランプに肉薄したため、「ルビオこそ保守本流の候補だ」いう見方が一斉に広まりました。アメリカの識者のコメントの中には「最後は保守本流が勝つよう共和党のエスタブリッシュメントはルビオ支持に回った」「保守本流が一本化された」などというものもあり、まるで「エスタブリッシュメントが共和党やアメリカ政治を動かしている」といった一種の陰謀説のようにもみえました。 しかし、2月6日の共和党候補の討論会で、ルビオが丸暗記した同じセリフを繰り返すなど、極めてだらしない姿を全米にさらしてしまいました。それもあって「エスタブリッシュメントが押す」はずだったルビオは9日のニューハンプシャー州予備選では5位にとどまっています。ルビオに向かうはずだった人たちは、同じく中道のジョン・ケーシックに流れたのか、ケーシックが2位となりましたが、それでも1位のトランプの得票の半分も取れなかった形です。
「エスタブリッシュメント」=非誓約代議員?
そもそも「エスタブリッシュメント」が何を指すのか、議論があるところです。大型献金者を指すのかもしれませんが、例えば、予備選段階の選挙制度だけをみると、共和党の方が “エスタブリッシュメント”の声が見えにくいという特徴もあります。というのも、予備選段階の各州での結果にかかわらず夏の党大会で投票できる「非誓約代議員」の割合が共和党の方が圧倒的に少ないためです。非誓約代議員は政党の役職者や現職議員で構成されており、政治の中核にいる人たちです。 少し説明してみます。そもそも予備選段階は、大統領候補の指名獲得レースである「夏の党大会」に送る代議員の争奪戦です。代議員の数は毎年変わりますが、各州で獲得した代議員の数で過半数を超えれば使命が確実となります。各州で獲得する代議員は基本的には党大会でその候補に票を投じることになりますが、原則として予備選挙や党員集会の結果に縛られずに投票することができる「非誓約代議員」の枠もあります(民主党は「特別代議員」という言葉を使います)。 この数が民主党の場合は700以上となり、全代議員4700強の15%を占めます。一方、共和党の場合は全2470強のうち、非誓約代議員は168で、6%にとどまっています。この数だけを見ると、政治の中核の声が届きにくいのが共和党側です。