造船所も酷暑対策に苦慮。昼間に不稼働なら納期に遅れも
国内外の造船所が深刻さを増す酷暑への対応に苦慮している。気温が基準値を超えると工場の操業が禁止される中国では今夏、多くの造船所が昼間を不稼働として早朝や夕方・夜間に操業する体制にシフト。これにより、猛暑による建造工程への影響を最小限に抑えたようだが、日本船主の建造船の一部で納期遅延のフォースマジュール(不可抗力宣言)も出た模様だ。日本でも酷暑が年々深刻化していることを受け、関係者からは「国内造船所も遠くない将来、朝・夜の操業に一定程度シフトせざるを得なくなるのではないか」との声が上がっている。 複数の市場関係者によると、中国造船所は船主との建造契約に、猛暑日が続いた場合に不可抗力による新造船の納期遅延を通告できるフォースマジュール条項を盛り込むケースが一般的だ。 導入時期は不明だが、「少なくともリーマン・ショック後に発注した新造船の契約には同条項が入っており、その商慣習は今も続いている」(国内船主関係者)。 条項の具体的な内容は、気温38度以上の猛暑日が3日続いた場合、新造船を納期通りに船主に引き渡す造船所の義務が免責されるというもの。 中国造船所での新造船の建造実績が豊富な国内船主関係者は「造船所が不可抗力を宣言すれば契約上は、38度超の猛暑日が続いた日数分だけ納期が遅れることになる」と説明する。 しかし、実際にはこれまで「中国ヤードが酷暑によるフォースマジュールに踏み切った事例はほとんど聞いたことがないし、工場内の温度計が38度を上回ったという話すら聞かない」という。 商社関係者は「特に酷暑だった今夏は、国内船主の建造船の一部で中国造船所が納期遅延の不可抗力を宣言するケースもあったようだが、中国造船業全体で見ればフォースマジュールはごく一部」と話し、新造船マーケットへの影響は限定的との認識を示す。 別の商社関係者も「中国造船各社は相当な隻数の受注を積み上げており、新造船を計画通りに引き渡したい考えが平時以上に強いだろう。不可抗力宣言については、どうしても避けられない一部の案件に限って実施している印象だ」と話す。 猛暑日の昼間の操業が制限される中、中国造船所が不可抗力宣言を極力回避して建造工程を進めるために実施している施策が、操業時間の早朝や夕方・夜間へのシフトだ。 複数の関係者によると、中国の主要造船所は酷暑の今夏、「気温がピークを迎える日中の操業を軒並み休止している」(海運関係者)ようだ。 代わりの操業時間は造船所ごとにさまざまで、「深夜2時から朝9時まで、早朝4時から午前11時までなど、作業を前倒しするヤードがある一方、朝5時から8時までと夕方5時から夜9時までを組み合わせるなど、朝・夜の2部制を敷いているヤードもある」(同)。 一方、日本造船所の操業時間は年間を通じて原則、朝8時から夕方5時まで。猛暑による納期遅延を不可抗力とする条項を建造契約に盛り込むことも通常ない。 国内造船各社も夏場の作業用に大型冷風機を増設するなど、これまで造船現場の就業環境の改善には特に力を入れてきた。 しかし日本でも酷暑が年々深刻さを増す中、中国ヤードが国の規制への対応とは言え、真夏の最も暑い時間帯の操業削減を実行。この動きを受け、「労働環境改善に注力している国内造船所も将来的に、朝・夜への一定の操業シフトに動き出すのではないか」(海運関係者)との見方が出ている。
日本海事新聞社