【福島原発事故11年】「処理水問題」はなぜこじれたのか? 「民間事故調」報告書より #知り続ける
「被曝リスク」より「主観リスク」で「経済リスク」顕在化
何より汚染水問題は漁業問題として立ち表れている。放射線量は極めて低く「被曝リスク」の問題というよりも、海外や一部の人の「主観リスク」という不安感情が存在するがゆえに、「経済リスク」が顕在化するという問題である。 トリチウムは通常運転されている世界中の原発において、温排水として海洋や湖に放出されている。日本ではこのトリチウムの排出基準は、成人が通常1日に飲む量の水(2.6リットル)を1年間飲み続けた場合に1mSv(ミリシーベルト)/年となる濃度を元に計算され、法令で定められた濃度の限度は6万Bq(ベクレル)/L(リットル)とされている。そのため、海洋放出が最もコストが少なく、安全であるという論も少なくない。 トリチウム水に関しては「地層注入」「地下埋設(コンクリート固化)」「海洋放出」「水蒸気放出」「水素放出」の5つの処分方法の選択肢が検討されたが、結果的には、方向性は環境(海洋、水蒸気)放出という以外に方向性は見出せていない(2021年4月13日に海洋放出の方針が政府決定)。
政府・東電と地元住民 どのリスクを最小化するかでギャップ
「処理水」に関する社会的影響の軽減策については、従前の風評被害の対策メニューの他にできることは多くはなく、風評対策の質的・量的な強化が求められているが、抜本的な打開策がないのが現状である。「処理水」の問題についての現状の国民的な合意と理解、及び輸入規制を続ける諸外国の理解の現状を鑑みれば、経済的影響は避けることができない。 福島県は震災前の2010年は8万トン、全国17位、182億円の生産額を有し、日本有数の漁業県であったが、震災後その姿は一変し、2016年における生産額は79億円で全国29位と大きく後退した。 漁業関係者や地元住民は「経済リスク」の最小化の問題を喫緊の課題として認識しているのに対し、政治家や科学者は「被曝リスク」の最小化と「主観リスク」の最小化を優先的な課題であると認識しているのである。だからこそ、漁業関係者や地元住民にとって風評は現実の「経済リスク」であるのに、政府、東電、専門家は「経済リスク」をどう制御するかという説明をせず、「被曝リスク」が小さいという説明ばかりを繰り返し、すれ違い続けている。 政府も科学者もなお科学的に説明をすることによって、このトリチウムを含む処理済の水の問題が解決できるとみなしている。ここに問題が存在する。