【福島原発事故11年】風評被害対策はどこまで有効だったのか? 「民間事故調」報告書より #知り続ける
2011年3月11日。東北地方太平洋沖でマグニチュード(M)9.0という超巨大地震が発生し、東北地方から関東地方にかけての太平洋沿岸を大津波が襲った。大量に押し寄せた海水は、東京電力福島第一原子力発電所(福島第一原発)の原子炉の冷却機能を奪い、福島県沿岸地域の浜通りを中心に景色を一変させ、人々の心に深い傷跡を残した。 【福島原発事故11年】東電の津波対策はなぜ先送りされたのか? 「民間事故調」報告書より 10年以上が経過した今なお、この未曾有の大事故の影響は、日本社会にさまざまな形で影を落としている。こうした中、民間の立場から独自に福島原発事故独立検証委員会(民間事故調)を設置し、2012年に調査・検証報告書を刊行したシンクタンク「日本再建イニシアティブ」が昨年、さまざまな角度から「10年後のフクシマ」を検証し、「福島原発事故10年検証委員会 民間事故調最終報告書」を刊行した。 「THE PAGE」は、日本社会の「いま」と「これから」を考える上で、避けては通れない福島第一原発事故から得た課題や教訓を「学ぶ」ために、同報告書の一部を抜粋し、要点をまとめた形で紹介していく。
安全性が科学的に証明されても…広範囲に根付いた偏見
――東京都民の半数ほどが、科学的知見に反して、「福島の人は後々、がんなどの健康障害が出てくる」と考え、4割ほどが「これから生まれる子や孫に健康影響が出る」と懸念している。 ――家族・子ども、友人・知人に福島県産の食品を食べることと福島に旅行することを勧めるかとの質問に、3割ほどの人が「放射線が気になりためらう」と回答した。 これは、三菱総合研究所が2017年と2019年の2回にわたって実施した世論調査で、福島県の復興状況や放射線の健康影響に対する東京都民の意識や関心・理解に関するデータである。福島への差別や偏見が広範囲に根付いてしまっている。 原発災害後の福島を考えるとき、住民にとってもっとも残酷な差別であり、もっとも過酷な試練はいわゆる風評被害だろう。安全性が科学的に証明できても、福島県産・福島の観光地だというだけで疑問符がつけられ、忌避される傾向は残り続ける。 行政は風評払拭に向けて様々な取り組みを行ってきた。福島県は県庁内部の一次産業、観光業、オリパラ、教育などを担当する各部局がそれぞれの分野で風評を払拭する取り組みを行っている。また、中央省庁では復興庁、経済産業省、農水省などが、パンフレットや動画を製作・配布したり、福島の農家などを招き、福島産作物や商品を紹介するようなイベントを福島県外で開催したりしてきた。2017年には政府が「風評払拭・リスクコミュニケーション強化戦略」方針を発表し、省庁横断的な情報発信をする事業も進めてきた。 このほか民間レベルでの風評払拭に向けた取り組みも数多くあり、例えば都内の大手企業が社員向けに福島産品を買い支えしようと直接販売の機会を作ったり、都市部の大学生が大学の食堂や学園祭で福島のコメや野菜を扱うようにボランティアで動いたり、といった草の根的な取り組みも行われてきた。