コロナ禍は震災の伝承活動にどのような影響を与えたのか? 東北大・佐藤翔輔准教授(災害伝承学)に聞く #知り続ける
コロナ禍は震災の伝承活動にどのような影響を与えたのか。災害伝承に詳しく、被災地のさまざまな伝承活動団体を支援する東北大学災害科学国際研究所・佐藤翔輔准教授(災害伝承学)に話を聞いた。(聞き手:ライター/ジャーナリスト・飯田和樹)
――新型コロナが被災地での伝承活動に与える影響をどのように見ていますか? お金周りの話を一切無視していえば、実は、私はポジティブにとらえています。この2年間でガラっと変わったことがあって、それは被災地内の学校が来てくれるようになったことです。それまではほとんど来ていなかった。もちろん時間的な要素もあったでしょうが、いろいろ複雑な事情もあった。しかし、例えば東京や北海道に行っていた修学旅行がコロナ禍で行けなくなった関係で、被災地内の伝承施設などに足が向いた。ここでガチっと心をつかむことができれば、継続的に来てくれるようになる学校もあるのではないか。そういう意味で、足元の伝承ができた2年間だと見ることもできます。 ――これまで難しかったことが、コロナ禍ということで逆に突破口が見えてきた。 よく「災害は時間を早巻きにする」と言われますが、コロナも時間を早巻きにしたと思っています。私は被災地の学校が震災に向き合い、伝承活動に関わることができるようになるまでには20年ぐらいの期間が必要ではないか、と思っていました。それが10年に縮まったと感じています。 ――東日本大震災の被災地では、過去の大きな災害に見舞われた地域と比べると、早くから伝承活動に力が入っていたと感じています。これはやはり津波災害が「繰り返す災害」という特徴を持っていることもあるでしょうか。 何年後、何十年後、何百年後にはまた来るという再現性の問題ですね。ただ、それは必要条件に過ぎません。十分条件というものがあって、それは「繰り返すのだけど、伝わっていなかった」という大きな反省が地域にあることです。それが伝承活動をする上での大きなモチベーションになっている。阪神淡路大震災だったり、新潟県中越地震だったり、過去に大きな災害に見舞われた先輩が伝承活動に取り組んでいたことも大きかったと思います。 ――一方で行政があまり伝承活動をサポートできていないのでは、と言う人もいます。 むしろサポートしすぎてはいけないとも思っています。行政がサポートすると、伝えられることが限られてしまう。公式見解しか出てこなくなる。でも震災にはいろいろな側面がある。だからいろいろな立場の人が伝えていかないと、立体的な震災像は出来上がらない。過度なサポートは震災の多様性、多面性を伝えることを阻害しかねない。行政は、さまざまな立場の方の活動を理解する、認めるという所が、むしろ大事なことかなと思います。