ソフトウェアを“手の内化”せよ!「ソフトウェアファースト」で挑むデジタル変革の道
● 人と組織の変革が 日本のデジタル産業成長の鍵 諸外国ではソフトウェアファーストが当たり前となり、ソフトウェア人材の獲得競争が激化しています。日本でも少しずつ同様の状況が現れつつありますが、その背景には異常な需給バランスがあります。 日本ではかつてソフトウェアの需要が限られていたため、供給不足は問題視されませんでした。しかし近年、需要が急増し、人材育成が追いついていないため、需給バランスが崩れています。加えて生成AIの時代を迎え、今後は既存人材も継続的なスキルアップが必要となっています。 この状況下で、日本社会は重要な選択を迫られています。規制緩和や人材流動化の議論が進んでいますが、私は「個人の意識の変革」がより重要だと考えます。社会が必要とするスキルを真に持ち、貢献したいと考える人材は、成長が見込まれる企業や分野へ自ら動き出すべきです。そのためには進化しようとする組織に、進化しようとする人が集まる仕組みが求められています。 アメリカをはじめとする諸外国では、成長できない企業が淘汰され、新しい企業が次々と誕生するのが一般的です。これは「人々の意思」によるもので、自己成長と挑戦の意識が産業全体を活性化させています。 日本政府もこの状況を認識し、デジタル産業の変革を促す政策を打ち出しています。2021年には「半導体・デジタル産業戦略検討会議」が設立され、2023年に具体的な戦略が公表されました。 この戦略では、日本のデジタル産業の競争力低下の原因として、ユーザー企業とベンダー企業の相互依存関係が指摘されています。デジタル化におけるユーザー企業のベンダー企業への依存と、ベンダー企業の低リスク・安定の受託型ビジネス志向が、グローバル市場での競争力低下とITシステムのブラックボックス化を招いているというのです。
また、多くのユーザー企業がITをコスト削減手段と見なし、社員のITスキル向上に投資しなかったことで、特定のベンダーに依存する「ベンダーロックイン」状態が発生し、経営の柔軟性が損なわれました。ベンダー企業も特定のカスタマイズに注力し、効率的な標準サービスの提供を避けてきました。 このような構造は技術開発への投資を阻害し、日本のデジタル産業の成長を妨げています。ソフトウェアファーストとは、単に技術の問題だけでなく、人と組織の意識改革を含む概念です。この変革なしには、日本はデジタル時代に遅れを取り、国際競争から取り残されるリスクさえあります。挑戦を恐れず、変革を受け入れる姿勢が、日本が再び世界で輝くために必要な鍵なのです。 ● 責任の所在の明確さと 決定へのコミットが重要 『ソフトウェアファースト第2版』の中から「人と組織を変える方法」として、いくつかの考え方を紹介しましょう。 ●責任の所在を明確にする プロダクトの成功には、責任の所在を明確にすることが極めて重要です。日本企業では、プロダクト責任者が複数人いたり、極めて高い職位の人が責任者になったりすることが多いですが、これには問題があります。 複数人で意思決定する場合、往々にしてリスクを取らない無難な結論に落ち着きがちです。また、高位の責任者だけでは、日々の細かい意思決定に対応できません。 責任者のアサインは、プロジェクトの規模や複雑性に応じて適切なレベルで行う必要があります。例えば、アマゾンの「シングルスレッド型オーナーシップ」では、1つのプロジェクトやプロダクトに対し、専任の責任者を明確に決めます。また、アップルの「DRI(Directly Responsible Individual:直接責任を持つ個人)」でも、特定のタスクやプロジェクトに対して、直接的な責任を負う個人を設定します。 こうした方法で責任の所在を明確にし、適切なレベルで責任者をアサインすることは、組織のスピードと柔軟性を保ちつつ、プロジェクトの成功を確実にするために不可欠です。