ソフトウェアを“手の内化”せよ!「ソフトウェアファースト」で挑むデジタル変革の道
●同意しないがコミットする 全員が完全に同じ意見になることは現実的ではありません。そこで重要になるのが「同意しないが、決定には従う」という原則です。これは、インテルやアマゾンなどが行動方針として採用しているものです。 この原則では、チームメンバーが意見の相違を持ちながらも、最終的な決定には全員がコミットするというアプローチです。これにより、無限の議論に時間を浪費することなく、迅速な意思決定と効率的な実行を促進できます。 ソフトウェアファーストな変革を成功させるには、この精神が重要です。変革の過程では新しいアイデアやアプローチに対して多様な反対意見が出ますが、この原則に則ることで、チームは意見の相違を乗り越え、迅速に前進できます。 ソフトウェア開発の分野では、技術や市場のトレンドが絶えず変化し、すべてのアイデアに何らかのリスクがあります。トレードオフの判断が求められることも多々あります。それでも変革を成功させるには、激しい議論の後でも全員が一致団結して進むことが不可欠です。「同意しないが、決定には従う」という原則は、それを強力に後押しします。 ● 組織の真の変革は 「Do」ではなく「Be」で始まる 変革を起こす際には、「何をするか」ではなく「どうあるべきか」を考えることが重要です。これは、アジャイル開発における「Do」(行動)ではなく「Be」(状態)で考えるべきという考え方と同じです。 ニューヨークタイムズのベストセラー『ジェームズ・クリアー式 複利で伸びる1つの習慣』では、人の習慣形成に関する方法が紹介されていますが、これは組織にも適用できます。組織も小さな習慣の積み重ねによって長期的に変化をもたらすことができます。
重要なのは、単なる目標設定ではなく、どんな人、どんな組織になりたいか(アイデンティティ)を明確にすること、「アイデンティティベースの習慣形成」です。例えば「禁煙する」(Do)という目標ではなく、「非喫煙者である」(Be)というアイデンティティを設定することで、自然と禁煙の習慣が形成されます。 組織に当てはめると、組織のアイデンティティを「ソフトウェアファーストな企業」と設定し、そのアイデンティティに基づいて日々の行動や習慣を積み重ねていくことが重要です。 ● DX化は「自社はどうなりたいのか」 でしっかり考えて進む 今回の『ソフトウェアファースト』改訂にあたり、私は「我が社ではDXをどう進めたらよいでしょう」と質問する初版の読者の方々の顔を思い浮かべました。その方々の中には既に「こうすべき」という答えがありそうなのです。人に頼り、世間に合わせるのではなく、自分は、自社はどうなりたいのか、しっかり考えて進んでもらえればと考えています。 今後、日本はソフトウェアだけでなく、その価値を最大化するためにハードウェアやプロセスの変革も進める必要があります。諸外国はすでにソフトウェアを中心としたビジネスモデルを構築し、組織全体の最適化を図っています。 日本もこの潮流に乗り遅れず、ソフトウェアの可能性を最大限に引き出し、未来を築いていく必要があります。ソフトウェアファーストが当たり前となり、日本企業がソフトウェアを武器にグローバルな競争力を持つ時代が来なければ、国際競争から取り残される危機が現実のものとなるでしょう。 ソフトウェアファーストが古い概念となる時代の到来は、私にとっては複雑な感情を伴いますが、同時に日本がIT先進国として再び輝く道でもあります。希望ある未来は、私たちが今、行動を起こすことで形作られるのです。 (クライス&カンパニー顧問/Tably代表 及川卓也、構成/ムコハタワカコ)
及川卓也