草野仁も感激…松井秀喜がアメリカで「子どものお手本」とまで言われていた「納得の理由」
「連続敬遠」にも動じなかった理由
私は以前から、5打席連続敬遠という、高校野球ではかつてなかった経験をしたとき、どんな心境だったのかをどうしても聞きたいと思っていたのです。松井選手からは当然「いやあ、1回ぐらいは打ちたかったですね」という言葉が返ってくるだろうと想像していました。 ところが、彼にそのことを尋ねると、平然とした表情で「いや、実はあの試合の9回の攻撃で僕の前のバッターが2アウトから3塁打を打って出塁したので5打席目が回ってきたんです。それがなければ4打席で終わって、あの騒ぎにはならなかったと思います」と、どこまでもクールな答え。 「絶対に自分とは勝負してこないと思っていたので、まっすぐ1塁まで歩くしかありませんでした」と話してくれました。そこには、興奮も動揺もなかったそうです。 いらだちも怒りもなく、当時18歳の高校生が、なぜそんなに冷静でいられたのでしょうか。 実は松井選手は小さいときから、父親に「人間万事塞翁が馬」という言葉をくり返し聞かされて育ったそうです。「人間、いつどんな状況に追い込まれるかわからない。そんなときも、慌てずにしっかりクリアできる冷静な心構えをもちなさい」と。 彼は、今がまさにそのときだと気がついたので、心を乱すことがなかったと話してくれました。これには驚くと同時に、「高校3年生で、何と大人なのだろう」と、彼の人間性の奥深さに感動したものです。 自分が松井選手の立場だったら、不平不満をぐちぐちと述べたかもしれません。本当に少年の心を超越した、立派な大人がそこにいたのです。
どこへ行っても人間性が高く評価されていた
アメリカでの松井選手の取材では、どこへ行っても、彼の人間性が高く評価されていることを知りました。 キャンプ地では、松井選手のサインを求めて、ファンが長蛇の列を作っていました。私は、その列の中で嬉しそうに並んでいた一人の女性に「どうして松井選手が好きなのですか」と質問しました。 すると彼女は「彼は、レフトの守備で打球を取ろうとして左手首を骨折したとき、『ファンのみなさまに心配をかけて申し訳ありません』と謝ったのよ! 今まで、ファンに対して謝罪したのは松井選手だけ。こんな素晴らしい人はいないわよ」と、熱心に説明してくれました。 また、二人の子どもを連れた男性は「子どもの教育を考えたら、松井選手しかいない。子どもたちも、ヒデキのことが大好きだからね」と答えてくれました。 事実、松井選手の素晴らしい人柄は、子ども向けのアニメ映画にも登場するほどに知れ渡っていました。 彼は、病気の少年がヤンキースのスター選手と出会って人生を学んでいくアニメ作品『ヘンリー・アンド・ミー』に登場。プロデューサーが広げて見せた宣伝ポスターには、松井秀喜を中心に、左側にはアレックス・ロドリゲス、右にはヤンキースのキャプテンのデレク・ジーターが描かれていました。 プロデューサーいわく「子どものお手本になるのは松井選手しかいないでしょう」とのこと。取材している私たちも、これには大変驚き、素晴らしいことだと感じました。
草野 仁(キャスター)