大手銀で「リアル」再評価 「金利ある世界」到来、相次ぐ新形態店舗【けいざい百景】
店舗数、30年間で6割減
江戸川大学の杉山敏啓教授の集計によると、大手銀行の有人店舗数(店舗内店舗などを除いた実拠点ベース)は1993年の4045カ所をピークに減少。2023年には1656カ所と6割減にまで落ち込んでいる。 銀行業界では、超低金利下の厳しい経営環境が長年にわたって続き、営業から業務、審査部門までそろえ、多数の人員を配置する従来型支店の維持コストが収益の重しとなってきた。また、人口減少への対応や、他行と統合・合併による重複店舗解消の必要もあり、各行ともこれまで店舗網を大きく縮小させてきた。 こうした流れはデジタル化の進展でさらに加速。特にコロナ禍を経てオンライン取引が普及し、多くの手続きはスマホさえあれば家にいてもできるようになったことで、銀行店舗を訪れる必要性は薄れてきた。 全国銀行協会が今年実施したオンライン調査では、銀行窓口を月1回以上利用する人の割合は23・9%と、18年の調査(27・5%)から低下。一方、スマホ向けのネットバンキングを月1回以上利用した人の割合は30・5%(18年は12・8%)と大幅に伸びて窓口利用を逆転し、オンラインシフトが鮮明となっている。
競うデジタル・リアル融合
ただ、杉山教授は「実店舗を縮小してオンライン取引にシフトする戦略だけでは、ネット専業銀行と比べた競争優位性が発揮できない」と指摘する。 コスト面でネット専業行に劣る大手行は、預金金利などの優遇を売りに勝負するのは難しい。各行が新形態の店舗を打ち出す背景には、「リアルチャネルを持つことの競争優位性を保持して、既存顧客をネット勢に取られないよう防衛したり、新規口座獲得で競り負けたりしないようにする」(杉山教授)という差別化戦略への転換があるとみられる。 ある大手行幹部は「店舗にはものすごくコストがかかっていたのでいっぺんに減らしてしまい、肝心の相談場所がなくなっている」と語り、顧客の利便性を犠牲にした行き過ぎた店舗網縮小の弊害を認める。 折しも、金利上昇によって銀行は融資や市場運用の利ざやが改善。収益拡大の機会が広がる中、その運用原資となる預金を獲得する重要性も増してきている。特に他行などへの流出が起こりにくい「粘着性」の高い預金が必要とされ、個人顧客をつなぎとめるさまざまな仕掛けが求められるようになったことも、リアル再評価の背景だ。 住信SBIネット銀行やauじぶん銀行といった住宅ローンの低金利などを売りにしてきたネット専業銀行にも対面の相談拠点を拡充する動きが出ており、銀行業界はデジタルとリアルの融合を競う新たなフェーズに入ったと言えそうだ。 もっとも、店舗を新形態に変えても「保険商品や投資信託が飛ぶように売れるとは考えにくい」(杉山教授)のが実情。来店数が増えても、粘着性の高い預金増加にどれだけ寄与するかも未知数だ。恐らく、立ち寄ってコーヒーを飲んだだけ、話を聞いてみただけで終わってしまうケースも少なくないだろう。 新形態の店舗の多くは商業施設などにテナントとして入居し、運営コストが少なく機動的に展開できる点がメリットではある。ただ、店舗単位の採算だけで安易に出店・撤退を繰り返せば、銀行の信頼失墜にもつながりかねない。必ずしも店舗に紐付かないオンライン取引が加速する流れに変わりはないとすれば、こうした新形態店舗の収益貢献度をどう評価していくかも課題となりそうだ。