「塩田千春 つながる私(アイ)」(大阪中之島美術館)レポート。ホーム=大阪ならではの親密さも感じる大型インスタレーション6点が登場
故郷・大阪で16年ぶりの大規模個展
塩田千春(1972年生まれ)の個展「塩田千春 つながる私(アイ)」が大阪中之島美術館で9月14日~12月1日に開催される。出身地・大阪での大規模な個展は、2008年の国立国際美術館以来16年ぶり。企画は國井綾(大阪中之島美術館 主任学芸員)。 塩田は現在ベルリンを拠点に国際的に活躍するアーティスト。第56回ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展日本館代表に選出されたほか、国内外の美術館で個展を開催している。その作品は「生と死」という人間の根源に迫るもので、赤い糸を用いたダイナミックなインスタレーションで知られる。 本展は「つながり」をテーマに、「私/I」、「目/EYE」、「愛/ai」という3つの「アイ」を通じてアプローチしようというもの。記者会見で塩田はテーマについて、「私自身にとってコロナウイルス感染症のパンデミックはすごく大きかった。人と距離を取らなくてはいけない期間を通して、人とこれほどつながっていたのだと感じた。そこから『つながる私(アイ)』としました」と説明。
6点の大型インスタレーション
見どころは、約1700㎡、天井高6mの会場を舞台に登場する、6点のインスタレーション作品だ。 会場入口に展示された《インターナルライン》(2022/2024)は、3着の赤いドレスと糸で構成された作品。垂れ下がる糸の間を通り抜けるようにして、鑑賞者は展示室へと入っていく。本作は館内はもちろん、館外の堂島川からも窓越しによく見える。 《巡る記憶》(2022/2024)は神経細胞ニューロンのように空間全体に編み込まれた白い糸と、水が張られたスペースから成る。糸からポタポタと滴る水が波紋を描き、水や命の循環を想起させる。 ホームタウンでの開催であることから、「家をテーマにした作品を展示したかった」と塩田が語る《家から家》(2022/2024)。人それぞれの家があるように、大小様々な家の形を赤い糸で織り込んだ。 「この作品での赤は血液の赤。血液の中に家族や国籍、宗教などいろんなものが含まれています」(塩田)。血液というモチーフは、血のつながりという親密さや温かさとともに、暴力性や恐れをも想起させる両義的なものでもある。 横の壁に展示された《地と血》(2013)は、塩田が自身の流産と父の死を相次いで経験したことから生まれた、痛みを感じる作品だ。しかしこうした辛い経験も、その後の制作や展示につながっていったと作家は語る。 「ドレスは私にとって第二の皮膚」(塩田)。そう語る通り重要なモチーフであるドレスが天井に吊られ、ほかのオブジェとともに回転する《多様な現実》(2022/2024)。ドレスの内と外、自身の中と外にある宇宙を重ね合わせ、誰ひとりとして同じではないそれぞれのリアリティへと思考を促す。 《つながる輪》(2024)は、本展のために一般から募集した「つながり」をテーマとするテキストメッセージを用いたインスタレーション。赤い糸が生み出す空間に1500通以上の手紙が織り込まれた。 《他者の自分》(2024)は会場で制作された作品。「あいち2022」に参加した際、看護専門学校時代に解剖学標本室として使われた場所で展示を行ったことからインスピレーションを膨らませ、人体模型や人体モチーフのオブジェで構成される。身体の臓器と、自分を自分であると認識する意識はどれほどつながっているのか。 「私の友人が臓器移植をしたら、すごく魚が好きになって。きっと臓器の元の持ち主が魚好きだったに違いないと話していた」というエピソードや、「私が抗がん剤治療をしていたとき、足が地面についているのに自分の体ではないような、他者や惑星とつながっているような感覚があった」といった経験を語ってくれた。 また本作には、過去に制作した絵画作品や、現在進行形で手掛けている新聞小説の挿絵も展示されている。これは読売新聞朝刊で2023年11月25日から連載されている多和田葉子による小説『研修生(プラクティカンティン)』のためのもので、現在も連載中のため会期中に展示作品が増えていき、最終的に361枚の原画が展示される予定だ。 巡回の予定はないので、このホーム=大阪ならではの展示をぜひこの場所で味わってほしい。 またグッズショップにも、世界的アーティストとしての側面だけでなく、”大阪の千春ちゃん”を感じさせるものが。「塩田千春の母&フレンズ特製!つながるたわし」(税込500円)は、かわいいイチゴ型のアクリルたわし。塩田千春の母とその友人によって一つひとつ手作りで編み上げられたもので、塩田のインスタレーション作品に実際に使われた毛糸を再利用して作られている。しかも「つながる私」ならぬ「つながるたわし」! ギャグも飛び出すホーム感満載のグッズを、ぜひ持ち帰ってみてはいかがだろうか。
福島夏子(編集部)