「人とのつながりが薬になる」―内門大丈先生インタビュー【後編】
◇「いま」できるベストを尽くす
私は、今後叶えたい目標・展望といったことにとらわれすぎないほうがよいと考えています。そのときそのときのベストを尽くす―それが認知症医療や高齢者の在宅医療の基本だと思うからです。 認知症というとどうしても「未来に対する予防」や「過去に対する治療」に目が向きがちです。しかし未来や過去に懸命になりすぎると、認知症である「いま」は無駄な時間になってしまいます。たとえば、高齢の人と会話をしていて「10年後にはマンションを買いたいですね」といった話には当然なりませんし「あの時がんにならなかったらよかったですね」といった話にもまた意味がありません。認知症の人の世界は、過去や未来よりも「いま」という時間で占められています。認知症の人の幸福を願い、進行を遅らせたいなら「いま」を充実させることが有益だと思います。当法人の掲げるミッションも「今日生きることを大切にする」としています。これは診療の場面はもちろん、人生そのものにも当てはまると思います。患者さんに対しても、自分に対しても、そのような生き方を大切にしたいです。 慢性期医療はどんなに厳しい状況を前にしても逃げ出さずに、皆で力を合わせて患者さんやご家族に寄り添っていくことが求められます。関わっていくなかで逃げ出してしまいたくなったり、診たくないな・しんどいなとネガティブな気持ちになったりすることもあるでしょう。ですが、そのような感情を抱く相手こそ「より助けを必要としている人なのだ」ということに、気付くことができるはずです。厳しい状況でも常に立ち戻って考えられるようになるとよいのではないかと思います。
メディカルノート