なぜドーピング騒動で名誉を傷つけられた井岡一翔はJBCの中途半端な公開謝罪を受け入れたのか…幹部2人は進退伺い提出も辞任せず
井岡の「気持ちを切り替え試合に集中したい」と和解に応じた心情は理解できる。だが、JBCとの交渉にあたっていた顧問弁護士とジムサイドは、まだ追及を継続し、JBCの改革が本当に行われるのか、そして2人の進退伺いが受理されるのか、までを追い続けなければならないだろう。井岡自身も「(トップ2人の)進退のことはジムや関係者(弁護士)に任せる」と発言した。 しかし、井岡側の顧問弁護士は、そういうコメントを出せなかった。「謝罪、ドーピング問題、情報漏洩、組織の問題をきっちり解決して欲しいとお伝えしてきた。(それに対する回答に)一定の評価をして謝罪を受け止めた。これまで謝罪を受け入れないと言ったことはない。今後、どう受け止めて、どう処理するかはJBCが考える問題」と答え、逆に永田理事長が、「こういう改革、ああいう改革をするという内容に納得していただき、それを我々がやりとげていくことが多少は井岡さんに伝わり、こういう時間を作っていただき、謝罪を受けていただけたのかなと思う」とフォローするという理解し難いやりとりもあった。 日本プロボクシング協会が、この問題の追及を続けている以上、井岡サイドにも、これですべてを一件落着とせず、協会に協力し継続的にJBCのあり方を監視していく義務があるだろう。 またもう一人の“被害者”田中恒成(畑中)への正式謝罪も宙に浮いたままだ。実は、永田理事長は、5月下旬に秘密裡に名古屋を訪れて畑中清詞会長、本人、父親の田中斉トレーナーらに事情説明、謝罪をしたが、畑中陣営は謝罪の受け入れを拒否。井岡陣営同様、JBCトップの責任とドーピング騒動を調査した第三者委員会のメンバー全員の公表など、多くの不可解な点を明らかにすることを求めていた。 永田理事長は、この日、「年間最優秀試合になる素晴らしい試合に対して、ドーピングの杜撰さ、情報漏洩があったことを説明し、お詫びさせていただいた。ドーピングを見直し情報漏洩委員会を立ち上げたことが、田中さんへの答えになる。すべてがハッキリした時点で(もう一度)ご説明したい」と回答した。 井岡陣営の出した上申書には、田中に対する謝罪と名誉回復も併記されていたが、これも解決されていない。田中陣営も、再起戦へ気持ちを切り替え、これ以上、この問題に振り回されることを避ける方針だが、まるで、それらを見越したように問題を先送りした感がある。 会見の最後を井岡はこんなメッセージで締めくくった。 「最後に言いたいことはドーピングの杜撰な管理で、このような状況を招いた。こちらに何の連絡もなく、警察にその情報が先にいって何も知らないまま自宅に警察がきた。警察に通報した悪意が心苦しかった。日本のボクシングを盛り上げようと、少しでも貢献しようとやってきたことに返ってくることがこういうことだったのか、と悲しい気持ちになった。そこからの何か月間は人生が変わるほど苦しかった。僕だけでなく家族も苦しんだ。ケジメとして謝罪を受け入れた。次に向かって頑張っていくが、そういうところを永田理事長やJBCの方には少しでも理解していただきたい。今日を境に日本ボクシング界が少しでも盛り上がるように頑張っていきたい」 この言葉がすべてだろう。 井岡が問題にしたのは週刊誌に情報が流れた組織のガバナンスもさることながら、永田理事長、浦谷執行理事の両名が、JBCによる正式なドーピング調査の手順を踏まずに警察にたれこんだという“情報漏洩”なのだ。しかも、井岡の潔白を晴らすために重要な検体を警察に押収されて消失してしまったという最大の失態につながった。 弁護士というだけでメンバー構成も公開されていない第三者委員会による情報漏洩の調査及び組織の管理体制の見直しの答申がどうまとめられるかはわからないが、永田理事長らの管理責任は免れない。ガバナンスの機能した組織に改善するには、まず人の入れ替えが最重要で、問題を起こした同じ組織でドーピング検査体制の見直しやガバナンスの整備ができるはずがない。奇しくも永田理事長が「この問題は終わっていない」と発言したが、問題が完全決着するまで“風化”させてはならないのである。 (文責・本郷陽一/論スポ、スポーツタイムズ通信社)